知っておきたい就活情報

【就活のリアル転載】私的なエピソード 社会人としての姿は見えるか 上田晶美(2021/8/10付 日本経済新聞 夕刊)(2021/08/17)


 「エントリーシートを見てもらえませんか?」と学生に言われ、添削することは多い。インターンシップにもエントリーシートが課せられるので、本番の就職活動が一段落しても、次の学年がスタートしてきて、年間通じて学生から相談を受けている状態だ。

 エントリーシートで出題される頻度が高いのは「自己PR」「学生時代に力を入れたこと」「志望動機」の「三大質問」とされるが、添削を頼まれたのは「尊敬する人」についての項目だった。

 実は「尊敬する人」について聞くのは、公正な採用活動を行うための規定からするとグレーである。その人の出生地、親のこと、宗教につながることなどを聞いてはいけないからだ。ただ、この項目を聞く会社は意外にまだ多い。

 彼女のエントリーシートに戻ると「尊敬する人は母です」と始まっている。「母はとても気配りができる人で、私のことをいつも気遣ってくれる」と続けられていた。文章はとても上手に書けていたが、クエスチョンである。

 そもそもエントリーシートの意味を考える必要がある。一義的に人柄を見るためというのもあるにはあるが、あくまで就職活動の一環として提出する書類だ。採用する側がどんな情報を求めているのか、客観的に考える必要があるだろう。

 例えば、母親を尊敬している、母親の日ごろの行動を見習いたい、というのは相手にどんな印象を与えるか。まず「良い母親になりたい」という家庭人としての姿はイメージできるかもしれないが、仕事とは別物だ。人柄といっても、仕事人としての姿が連想できるストーリーがほしい。

 また、親のことを書くと、どうしても子どもとしての顔が出てしまう。いつまでも親の子ではあるが、社会人として責任ある行動をとることが求められているので、子どもっぽくなるストーリーは避けたいところだ。

 彼女には「この文章は良く書けているので、お母さんに見せてあげたら喜ばれると思う」と伝えて、書き直してみるようにアドバイスした。

 同様に子どもっぽくなることを避けるという視点は他の質問でも大事である。「これまで一番印象に残っているできごと」を聞かれても、あまり幼少期のエピソードを持ち出さない方が望ましい。

 小学生時代の夏休みの思い出話をされても、社会人としての行動が見えず、仕事に結びつけた評価につながりにくい。できるだけ直近の大学時代、せいぜい高校時代の話題までにとどめておきたい。

(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/


     

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