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【就活のリアル転載】やりがいより楽、ダメ? 給料・勤務地…欲張らなければ可 海老原嗣生(2021/8/17付 日本経済新聞 夕刊)(2021/08/24)


 この時期になって、就活がうまく進んでいないという学生と話をする機会があった。彼の志望は「やりがいのある仕事など不要。楽な仕事で福利厚生が充実しているところを探している」という。今までどこを受けてきたのか聞くと「特殊法人や財団法人を中心にエントリーシートは14ほど出した。面接は3社」とのこと。

 確かに選びどころは間違っていないし、しかも、他の学生と違って目の付け所も良い。果たしてこんな学生に接したとき、親や先生はどのように指導するだろうか。

 「そんな甘い考えが通用するか」「真面目に考えろ」となりそうなところだが、私は決して全否定はしない。バリバリ働くしか選択肢がないのもおかしなものだろう。そんな社会とは平成でお別れしたいところだ。

 そこで私は「それもいいんじゃないかな。ただ、正面切ってそんなこと言うなよ。たとえ、入社後はそんな生活になるとしてもね」と返す。そして、3つのことを考えさせる。

 1つ目は「あなたがその会社(組織)に入って、何をしてあげられるのか。どんな得があるのか」。そう、面接とは自分という商品を相手に買ってもらう行為に他ならない。要望(待遇やワークライフバランス)だけでは成り立たない。ギブアンドテイクになるようにすること。

 2つ目は「一生つまらない仕事で、低年収でもよいという覚悟はあるか」。財団や特殊法人は確かに年功的に給与が上がるが、そんな組織こそ珍しく、めったに入れるものではない。

 やりがいも成長もない仕事が続くなら、入社時年収は200万円ちょっとで、50歳になっても年収400万円程度で終わる。こうした説明を具体的にする。そして「それでもよい」という学生には、3つ目に企業の探し方を提示する。

 (1)脱東京で周辺圏(2)企業規模は従業員100~300人程度(3)得意な商品を持っている食品や土産物店などのメーカー(4)サイト検索では給与が低いところ――から当たるべし。

 学生に伝えるべきは「楽して儲(もう)かる仕事はない」ということ。「楽」を通したいならそれもよいが、給与や勤務地まで欲張るのは許さない。そこまで示しても「よい」というなら、立派な主義信条だろう。

 親や先生は「それで家族が養えるか」などとつい心配になる。ただ社会は変わった。楽な仕事なら夫婦共働きで家事育児分担もできる。とすると、50歳夫婦の世帯年収は800万円にもなる。家庭生活は維持できるだろう。男尊女卑で仕事は男のみ、という社会は崩壊した。旧来価値観で学生を斬り捨てるのも、そろそろおさらばすべき時だ。

(雇用ジャーナリスト)


     

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