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【就活のリアル転載】ペースメーカー 就活サイトが回す巨大サイクル  海老原嗣生(2021/9/14付 日本経済新聞 夕刊)(2021/09/21)


 就活生にとって必需品ともいえる「就職ナビサイト」。今週は「企業と学生との接点」という直接的な機能を離れ、もう少し巨視的に見た社会的な価値を考えたい。やはり大きいのは「ペースメーカー」としての役割だ。

 就活に対しての半可通は訳知りにありがちな話をする。たとえば通年採用だ、自由化だといった類だ。それは過去連綿と言われ、一時期その通りになったが全て跡形もなく消え去っていった。何度かこの連載でも書いたが、再度説明しておこう。

 まず、企業はその年の採用数を決めている。それが埋まったら必然的に窓口は閉じる。つまり通年で開けておくことなどできない。逆に採れない企業はいつでも窓口を開けっぱなしだ。人気企業でも理系、とりわけ機電系は採用困難なために「通年採用」となっている。

 仮に、採用できるのにわざわざ窓口を閉じ、秋冬になって再開する企業があったとしよう。そうすると、何十社も落ちた学生の駆け込み寺となってしまう。かつて、新卒採用を始めたばかりの大手外資が何度も「秋採用」を標榜したがうまくいかなかったのはそのせいだ。

 自由化はもっと危ない。2000年前後、完全自由化の一時期、就活は2年秋まで早まり、企業はへとへと、大学は学業崩壊に泣かされた。産学どちらも、もう戻りたくないのだ。

 ということで、必要悪として就職協定的なものが生まれ、それを皮切りに一括採用に帰結する。歴史はこの繰り返しだった。

 採用力も資力もある一部外資とベンチャーがこれに逆らい、今も早期採用をしているが数少ない。その他の企業は、早期採用したとしても、採用解禁後に超大手が活動を始めると、ぞろぞろと内定者が流れてしまうので意味がない、と活動を待つ。

 そうして大手の採用が終わる夏から秋にかけて、中堅・中小の採用が本格化する。学生たちは大手を何社も落ち、相場観を身に付けて夏を迎え、中堅・中小に顔を向けていく。ナビサイトは、このプレーヤーが多岐にわたるサイクルをつつがなく回す機能を果たしている。

 インターンシップ、合同説明会、求人広報開始、企業別説明会、エントリー、書類審査、面接日程管理、合否通知――。ナビサイトがない時代、就職本だけで、こんな巨大サイクルはとてもつくれなかった。1990年代までは一部有名大学と大手企業の間でひそかに採用が始まり、他の学生は蚊帳の外。解禁日に数社並ぶとそれで終わっていた。

 一部の企業と学生の動向しか反映していないナビサイトに求める役割を駅伝で例えれば、トップ争いを盛り上げる中継車ではなく、ペースメーカーの伴走車だ。

(雇用ジャーナリスト)


     

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