「行きたい会社がわからなくなってしまいました」。女子学生が相談してきた。明日ある販売会社の役員面接を控えているが、もし受かっても入社するのは気が重いというのだ。
なぜそんな会社に応募したのか。大学の求人課で紹介を受けたわけでも、就活サイトでたどり着いたわけでもないそうだ。詳しく経緯を聞くと、就職活動をサポートする人材紹介業者からの紹介がきっかけで、同じような業種の4社を紹介されたという。ここで具体的な業種は書かないが、学生からは不人気な業種だ。
大学生に就職を斡旋(あっせん)できるのは、以前は大学かハローワークなど公共の団体に限られていたが、規制緩和で民間の人材紹介会社も参入している。そういった会社のサポートを受けて就職する学生もいるし、会社に出合うきっかけは多いに越したことはない。ただ留意したいのは、学生が「商材」扱いされているのではないか、という視点だ。
学生から料金をとらなくても、企業から1人当たり何十万円と紹介料をもらうビジネスモデルだ。多くの学生を企業に送り込むほど、利益が増える仕組みになっている。学生から高額なセミナー料を取った上で会社を紹介するケースもある。
相談を受けた彼女はセミナー料は払っていなかったが「会社を紹介されるペースが速すぎて、考える暇がなかった気がする」と話していた。矢継ぎ早に会社を紹介され、面接の前には志望動機などの文章をチェックされる。終わったら確認の電話がくる。一見スピーディーで親切なようだが、ゆっくり考える時間を与えないのはいかがなものか。
人材紹介はそういうビジネスなのだから当たり前、と言ってしまえばそれまでだし、嫌になったなら面接を辞退すればよいと思う。でも年上の社会人に対して対等に物が言える学生ばかりではない。
もちろん大学生は責任能力のある大人であるから、自分で判断することは必要だ。けれども初めての就職に際して、学生がどのくらいの常識や判断力があるかというと、既卒の社会人や転職人材とはまるで違う。
ある大学のキャリアセンターの担当者は「勧誘や斡旋が強引な会社の情報は大学の関係者の間で共有しており、学生には気を付けるように促している」と話す。ひどい会社は「出入り禁止」扱いにしているそうだ。
「内定を辞退すると言ったら紹介会社から恫喝(どうかつ)された」という話も耳にする。学生は自分が人材会社に「商材」と見られていることを意識し、迷ったら大学に相談しよう。ただより高いものはない。
(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/