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【就活のリアル転載】適性試験の替え玉受験 採用活動「後ろ倒し」が遠因 海老原嗣生(2021/12/7付 日本経済新聞 夕刊)(2021/12/14)


 新型コロナウイルス下で進んだ就活のリモート化の影響について、一点、大変なことを忘れていた。適性検査のリモート化で起きた「替え玉受験」問題だ。これは既に、私とペアで当欄を執筆されている上田晶美さんも言及されているが、新たな情報を加え、再論させていただく。

 まず、適性検査と呼ばれるものには、大別して2つの種類がある。一つは性格などの基礎的な傾向をみるもの。もう一つは思考力・論理性などをみるもの。多くの適性検査はこれらをセットで提供している。

 性格の傾向を見るテストについては、善しあしを測るものではないので、替え玉受験をする人も少ない。そもそも誰を替え玉にすればいいのかも難しい。そのため以前からリモート化され、自宅や大学など場所を選ばずに受験が可能であった。

 一方、思考力・論理性テストは平たく言ってしまえば、国語と算数のテストだ。正解か不正解かが明確で、はっきりと点数がつく。そのため、替え玉受験がなされる危惧が大いにある。

 だから、多くの場合は、募集する企業か、もしくは、テスト会社が設けているテストセンターにて、監督官の監視下で受験することが旨とされてきた。

 ちなみに、テストセンター方式はもう10年以上前から普及しており、学生はここであらかじめ受験した結果を、数社に使いまわすことも可能であり、また、体調不良の場合や、じっくり練習を積んで「受け直す」こともできるようになっていた。

 このテストセンター方式が普及した理由としては、2015年の採用活動が「後ろ倒し」になった影響がかなり大きい。

 それまでは学生が大学4年の4月1日から企業は個別接触が可能だった。書類選考を通った学生に対して面接を施し、内定が近くなった段階で適性検査という流れだ。かなり数が絞られてから適性検査を実施するため、企業が個別にテストを実施するのでも十分だっただろう。

 ところが、15年に個別接触が8月1日に後ろ倒しとなり(その後6月1日に揺り戻しが起きたが)、これだけ遅いと企業は焦ってくる。個別接触できるまでの間に、何とか候補学生のめどをつけようと、グループディスカッションや適性検査を先行して行う企業が増えていった。

 当然、まだ数が絞られていない大勢の学生が対象となるわけだから、個別の企業ではやすやすと対応はできない。学生にしても、企業ごとに何回もテストを受けねばならないのはきつい。そこで、テストセンター方式が花盛りとなっていったのだ。

 そんな地ならしがあった中で、コロナ禍となった。センター受験では応募企業も異なる見知らぬ学生の間で感染が広まる可能性がある。自社受験に変えても感染の可能性はあるし、それ以前に対応する余力もない。そうして、適性検査のリモート化に舵(かじ)を切ることになった。

(雇用ジャーナリスト)


     

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