最近、学歴フィルターについての議論が喧(かまびす)しい。ある中堅スーパーが就職ナビサイトを通じて送ったメールに「大東亜以下」との文言が入っていたのが事の発端だ。企業の採用活動において、大学を偏差値でランク分けした「選抜」の存在が指摘された。
ただ、どうも議論がかみ合わない。理由は簡単だ。ナビサイト側も件(くだん)の企業も「学歴フィルターなどない」の一点張りで、きちんと説明をしていないからだ。そのせいで、的はずれな批判がなされてしまう。
学歴フィルター、そして、学歴というものについて、しばらく論じていきたい。
まず、この連載で何度も書いてきたが、就職ナビサイトに大学名で自動・機械的に選別がなされる機能はない。
学歴フィルターに類するものは、プレエントリー(応募の意思表示)をした学生にメールを送る際、大学の偏差値ランクごとに送る時期をずらしたり、送るメール内容を変えたりすることがそれに当たる。ある大学の学生には説明会の勧誘メールが来るが、別の大学の学生には来ない、ということが起きるのだ。
なぜ、企業はこんなことをするのか? 理由は簡単だ。説明会、書類選考、面接などにはかなり手間がかかる。現実的に、大企業といえども面接対応できる学生は大体3000~4000人程度であり、そのうち、100~200人程度を採用するというケースが多い。
自社に興味を持ちプレエントリーしてくれた学生が数万人にも及ぶ場合、実際に全員に応募されても、企業側は物理的に対応できない。そこで「選抜」して呼び込むことになる。その際、偏差値ランクが使われることが間々ある。
偏差値が、企業別の風土との適性や入社後の業績と関係性が深いのであれば、批判も起きないだろうし、企業側は反論もできるだろう。そこが不明確だから、責められる。
なぜ偏差値が採用に使われるのか。2つの理由がある。
(1)以前からの採用実績校の偏差値に合わせている。つまり惰性、もしくは前例主義。
(2)偏差値の高い大学に入るには、以下のような能力のどれかが必要だ。「知力の高さ」「要領の良さ」「継続学習能力」。これらはいずれも、企業の業務遂行に役立つ。
(1)の前例主義はいただけないが、(2)はそこそこ納得できる。
企業に必要な力はまだまだある。協調性や体力、達成意欲なども重要だ。スポーツ、とりわけ集団競技の場合はこの3つが磨かれる。だから企業は体育会系の学生を好む。これもいわば、偏差値選抜と同じ原理といえるだろう。
数万人の学生を応募順や整理券で無作為に絞るのと、偏差値やサークル活動で絞るのならば、後者の方がまだ合点がいくという「必要悪」の考え方で、この蛮習は続いている。
(雇用ジャーナリスト)