前回、企業の「学歴選抜」の仕組みを書いた。就活ナビサイトに登録された数万人の学生から3000人程度に絞って面接に呼び込むため、大学受験における偏差値ランクが使われているという実態だ。
企業側としては、高偏差値校に入るには(1)知力(2)要領の良さ(3)継続学習力のどれかが必要で、それらは企業内で業績を上げる力にある程度通じるから、との理由だ。
ただ一時期、AO入試のはしりの頃、この選抜軸が全く役に立たないというカオスが起きて、企業は大いに悩んだ。私はそのさまを「学歴の耐えられない軽さ」という本にした。もう12年も前のことだ。
当時は高校の学業成績など無関係に、一芸や論文、プレゼンテーションだけでAO合格できる偏差値ランクの上位校が少なからずあった。
結果、大学ランクで選抜したうえに面接で人物面をチェックする従来方式で採用した新人たちが、使い物にならないという事態が起きた。
同著で書いた事例を挙げておこう。
「宮城県と宮崎県がわからない新人」
「添加物の『塩化ナトリウム』という表示を見て『得体(えたい)のしれない薬品が入っている』という内定者」
「新人にランチの支払いで割り勘を頼んだら、電卓がないから無理と断られた上司」
笑い話で済めばいいが「好きなことは熱中してやるが、その他のことはやらない」「すぐ音を上げる」など業務遂行面でも多々問題が起きた。
企業は面接で大学への進学ルートがAOか否か尋ねるようになったが、「AOというと落ちる」という話がすぐ広まり、この対策も意味をなさなくなる。
そうして2010年前後には、企業側が大学ランクを信用しないという時代になった。ただ学歴選抜がなくなったわけではない。逆により深くなった。企業側はなんと、出身高校まで聞くようになったのだ。
一方の大学側も、学力基準なくAOで入学した学生たちに手を焼いていた。とりわけ上位校では高校レベルの数学や常識的な歴史・社会をベースとした授業で、AO入学者がついて行けず難渋する事例が相次いだ。
こうした状況を国側も危惧し、大学のAO入試に高校時代の成績評価を基準に盛り込むよう方針が示される。これを受けたAO入試改革以降の大学入学者が就活時期となってから、企業はようやく旧来の「学歴+面接」という手法に回帰できることになった。
「ゆとり教育で最近の若手は学力が低下した」と言われるが、その批判は正しいとはいえない。ゆとり教育は02年に始まり、当時の中学1年生が就活時期を迎えたのは11年。「最近の学力低下」はそのはるか以前に始まっている。やはりAO入試が主因といえるだろう。
(雇用ジャーナリスト)