知っておきたい就活情報

【就活のリアル転載】就職活動の軸 一つにまとめる必要なし 上田晶美(2022/2/8付 日本経済新聞 夕刊)(2022/02/15)


 「私の就活の軸は人に寄り添うことです」という志望動機をある女子学生が見せに来た。学生はよく、この「就活の軸」という言葉を使いたがる。おそらくどこかのネットにでもノウハウとして書いてあるのだろう。

 確かに自分の軸というものを考えるのは悪いことではない。働くことが「自分ごと」になり、社会に出て何を成し遂げたいかを真摯に考える、その起源となるのだから。ただしそれは自己分析の段階の話だ。志望動機として会社に伝えるかどうかは別問題である。

 ではその軸をどんな業界で実現しようとしているのかを聞くと「人に寄り添うために保険会社かクレジットカード会社を志望している」そうだ。人に寄り添うというと、カウンセラーや医療・福祉関係かと想像する。志としては何ら問題ないが、仕事の実態に即しているかといえば、少し遠い気がするし、自分の軸と志望業界の間にかなり飛躍があるように感じる。

 では、その間を埋めるどんな商品・サービスを通して人に寄り添うつもりかと聞いてみた。病気やけがのときに保険で手術代を賄うことで人の役に立つ。クレジットカードも手元に資金がなくて困った時に役立つ。確かに人の助けにはなる仕事ではあるが、寄り添うというのとは少し違う気がする。

 そもそも「自分軸」を無理やり引っ張り出してくる必要があるのか。しかも軸を一つにまとめようとするからややこしくなり、何にでもあてはまりそうな「寄り添う」という言葉が出てきてしまう。

 言葉遣いの問題は置いておいて「ところで本音は?」と聞いてみた。本当の志望理由を聞いてみたかったからだ。「保険会社は選考の時期が早く声をかけてもらったからです。クレジット会社はこれからキャッシュレス時代になるから有望と思ったからです」。それならば納得である。

 素直にそこから考えてみるのがよいのではないか。選考の時期が早いからは余計だが「声をかけてもらったことがきっかけで、調べていくうちに魅力に感じ」と発展させればよい。金融商品で人を支えたいとか、人の暮らしを支えるライフラインの仕事につきたいなど、いくつか軸があっても問題ない。

 ただ、きれいにまとめようとしすぎて、歯が浮くような言葉の羅列になっていかないよう気を付けよう。まずは本音を大切に考えること。人事は何百人、何千人の学生の話を聞いているプロ。すぐに見破られ、なぜなぜと、どんどん突っ込まれて万事休すとなる。

 特に「軸」の話から始めると、どのように社会貢献するかという方向に拡散し、収拾がつかなくなる傾向がある。自己分析の段階で自分の軸を考えるのはよいが、それを面接にまで持ち込まない方がよい。面接はカウンセリングではないのだから。

(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/


     

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