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【就活のリアル転載】欧州の学歴フィルター 「ふるい落とし」の精度に差 海老原嗣生(2022/3/1付 日本経済新聞 夕刊)(2022/03/08)


 学歴フィルターの件で、もう少し視野を広げて、世界の状況を見てみたい。

 欧州は小学校からずっと、選抜の仕組みが出来上がっているのをご存じだろうか。

 欧州大陸国の多くは、大学が無償に近い。それ自体羨ましいことではあるが、ただし、現実は厳しい。無償であるからには、それに該当する人しか入学できない。

 では大学進学者はどのように選ばれてくるのか。欧州諸国では成績選抜が激しい。ほとんどの国で義務教育の間に2~3割の落第生が出る。35人学級ならば、中学卒業までに10人ほどが「クラスからいなくなっている」のだ。

 こうした落第生の多くは中卒で職業訓練校へと通う。だから欧州の中卒比率はいまだに2割前後にもなる。

 高校進学でも「ふるい落とし」が激しい。下位3割程度は職業系の高校にしか入れない。日本のように工業高校から普通大学に誰でも進めるわけではない。

 高校の種別によって卒業(=大学入学のための)資格が異なるため、職業系に入ると、なかなか普通大学には入れない。

 加えて、フランスだと普通高校に入っても、1年修了時にコースの再選抜がなされる。さらに高校3年時には、卒業資格を取るための修了試験が課される。これがかなり厄介だ。

 フランスのバカロレア(理系)だと、フランス語、数学、物理・科学、歴史・地理、外国語、哲学など多くの必修科目に加え、選択科目として、ラテン語や古代ギリシャ語などまで求められてきた歴史がある。

 ドイツの場合は州により科目数が異なるが、最低でも6科目、一番多いバイエルンでは12科目にもなる。

 日本のように多くの私学が1~3科目で受験でき、国公立大学でも4科目以下で受けられる大学が多々という状況と比較してほしいところだ。

 そもそも大学に入るのにこれだけ選抜されてきて、さらに大学でも選抜は続く。欧州大陸国の卒業(学位取得)割合は入学者の6~7割。ここでも多くの人が脱落する。

 無償ならば生徒に媚(こ)びる必要もない。だめなものはだめ、と切り捨てられていくだけだ。

 これに対して、日本は経営費用の多くを学費で賄う。退学や放校が相次いでしまっては経営が揺らぐ。だから学生に甘くなり、卒業率は高くなる。

 欧州の仕組みはハードだが、それ故、学歴の価値が保たれ、学歴で差をつけることにも納得がいく。しかも中学や高校から日本の大学受験以上の「ふるい」にかけられている。日本はたった数科目の偏差値のみで将来が決まるから納得が得られにくい。

 ただ一方で、日本社会が「欧州型」への改革を良しとするのだろうか。それはまた別の問題になってくるのだが。

(雇用ジャーナリスト)


     

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