知っておきたい就活情報

【就活のリアル転載】ダイバーシティーの必要性 性別による偏見に敏感に 上田晶美(2022/5/10付 日本経済新聞 夕刊)(2022/05/17)


 就活の面接講座で「女子は朝メークするときに鏡を見ると思いますが、男子は鏡を見る機会が少ないので自分の笑顔をよくチェックしましょう」と言ったら、「女性はメークするという決めつけは良くないと思います」という反論をある女子学生から受けた。確かにそうだ。

 女性は化粧をするというのは決めつけであり、ジェンダーバイアスだと反省し、謝罪して訂正した。女性だからといって化粧をすると決まってはいないし、就職活動だからといって、にわかに化粧することを押し付けるつもりは毛頭なかった。

 単にコミュニケーションに不可欠な笑顔の話をするつもりが、事例が不適切だったと謝罪し、その女子学生の意見する姿勢を褒めた。目上の人に対して自分の考えを述べたり、反論したりするのは勇気がいるときもあるだろうが、自分の意見を口に出せることは素晴らしい。

 化粧、髪形、服装は本人の自由だ。相手に不快感を与えないマナーは求められるが、面接で見られるのは容姿ではなく、その人のビジネスにおけるポテンシャル、会社への適応力である。

 ことほどさように、性別についての言い方には気を付けなくてはならない。ジェンダー問題に関心を持っている私でもこうした発言があることを猛省し、意見してくれた学生には感謝の気持ちしかない。

 また、別のある勉強会で女子学生がこう質問してきた。「なぜ企業の中にジェンダー平等や多様性が必要なのですか?」。多様性に配慮している企業の方が利益率が高いという各種の研究結果が発表されているが、米国に住むある女性はこう答えてくれた。

 「多様な視点があると経営や販売戦略の盲点を少なくできる。例えば国ごとの文化、習慣の差は当事者しかわからないことが多い。国により清潔さの水準、交通事情の違いなど、マーケットがグローバル化している現在の企業活動には人種や男女などの多様性、すなわちダイバーシティーが必要です」という説明だった。大変わかりやすくて学生も納得したようだ。

 国内市場向けの小規模な企業であったとしても、性差や国籍の違い、ハンディキャップの有無は身近にある。常に多様性を意識していくことが大切で、そのためには内部にもチェックの目が必要となる。一般社員は言いにくい場合もあるだろうから、発言力の大きい管理職にダイバーシティーが求められる。

 男女数のバランスといった数合わせやコンプライアンスのためだけでなく、多様性の確保は社会常識として解決していきたい課題だ。

 就活の面接では笑顔があった方が話しやすくなるが、過剰なマナーの押し付けは男女ともに不要である。働きやすさ、ダイバーシティーの実現を目指す努力を企業は続けたいし、その姿勢を学生はしっかり見ている。

(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/


     

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