知っておきたい就活情報

【就活のリアル転載】保護者の皆様へ 思い込みのリセットを  栗田貴祥(2022/8/16付 日本経済新聞 夕刊)(2022/08/29)


 私が所長を務めるリクルート就職みらい研究所では、就活の実態について長く調査・情報発信をしている。大学で講演することも多く、就活に関する保護者向けセミナーも行っている。

 そこで伝えているのは「就活の現在地」だ。就活生が自分らしい進路選択ができるようになるためにも、保護者世代の理解が深まってほしいと考えている。

 では、学生を取り巻く環境、就活の進め方、学生自身の価値観はどう変化しているのだろう。当研究所の2022年大卒生の調査では、就職先を確定する際の決め手として「自らの成長が期待できる」と回答した学生が46%でトップだ。

 働きたい組織の特徴に関する調査でも、学生の成長志向の高まりが読み取れる。「どこの会社に行ってもある程度通用するような汎用的な能力が身につく」のか、「その会社に属していてこそ役に立つ、企業独自の特殊な能力が身につく」のかを選ぶ項目では、前者を選んだ学生が73%を占めている。

 コロナ禍で社会の不確実性はますます高まり、どこでも通用するスキルや経験を身につけられるかが、企業に求める新たな価値となっている。企業は個人のキャリアや成長をサポートし、個人は自らの成長を通じて企業に貢献する。このウィンウィンの関係を築けるかが今後の基準となっていくだろう。

 背景には、停滞する日本経済への不安や危機感も大きい。就活情報誌をもとに就活をしていた世代の経済成長率(1974~90年度の平均値)は4%台前半だったのに対して、近年のウェブ世代(2004~20年度の平均値)では0.4%にも届かない。「入社すれば定年までは安泰」と楽観できず、自らが成長できる機会を重視する傾向は当然とも考えられる。

 こうした時代背景の変化があるのに、「転職を前提にキャリアアップする考えを親に理解されず、意見の違いに納得できなかった」と話す就活生もいる。保護者が環境の変化を理解しないままでは、キャリア観の押し付けになってしまう可能性もあるのだ。

 また産業構造の変化により、93年度には26%あった製造業への就職率は、21年度には10%に低下。一方、サービス業に就職した学生は36%と大きく伸びている。実際に周りを見渡せば、ここ10年で生まれたサービスがいかに多いかに気付くはずだ。

 就活生からは親に「名前を知らない会社は会社じゃないかのような発言をされた」、「真剣に考えて決めた業種なのに否定された」と嘆く声も出ている。一方で、「就活環境の違いを理解し、自分の考えを第一に尊重してくれた」といったものもある。

 保護者が従来の就活事情、安定企業のイメージを一度リセットすることから、就活サポートは始まるのかもしれない。

(リクルート就職みらい研究所所長)


     

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