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【就活のリアル転載】企業に定着するには 「ヨコ」と「タテ」の見通しカギ 海老原嗣生(2022/8/30付 日本経済新聞 夕刊)(2022/09/06)


 小規模企業を就職先に選んだ場合、自分の性格と社風が合っていなくても、配置転換でシャッフルされる可能性は低い。だから就職という入り口が「合っているかどうか」をよく見極めるべきだ。そのために面接では強めに自己主張して、それでも採用されるかどうか企業側の反応を見た方がよい。

 別の観点からもアドバイスしたい。企業に定着するかどうかを分ける重要なポイントとして、一つは企業との「相性」があるが、もう一つ大切なのは「見通し」だ。これは、リクルート創業メンバーの一人で、心理学に詳しい東大修士の大沢武志氏から生前に聞いた話だ。

 キャリアの世界では、米国のハックマンとオルダムが唱えた「職務設計の中核的5次元」という有名な理論がある。この5要素が、やりがいや忠誠心をはぐくみ、結果、定着が促されるという。ただし、学術用語の和訳によくある通り、その内容は難解だ。そうした中で、大沢氏は以下のたった二言で、それを代弁したのだ。

 「要は『ヨコの見通し』と『タテの見通し』じゃな」 「じゃな」という語尾を用いる方ではないが、威厳を示すためにここでは脚色をお許しいただきたい。

 ヨコの見通しとは、会社の中の風通しを良くして、周囲の仕事が見えるようにすること。組織が大きくなり、個人が小さな歯車になっていくと、人は、自分の仕事が何のためにあるのかわからなくなっていく。そこから寂漠とした思いに駆られ、やる気がうせていくのだ。

 一方、タテの見通しとは、個人のキャリア導線の見晴らしをよくすることをいう。

 たとえば、現時点の仕事がとても退屈でつまらないとしよう。それでも、自らの将来のキャリアを展望し「ああ、将来あの仕事に就くためには、今、これをやっておかないといけないな」とわかれば、仕事の意義は高まる。

 もしくは過去を振り返り「つまらないと思っていたけど、1年前よりは格段に成長してるな」と感じられれば、やはりやる気は保てる。

 大企業は「ヨコの見通し」が当然弱く、中小企業は逆に「タテの見通し」が不明瞭だ。

 そこで、大企業は集合研修や社内総会、配転などで「ヨコの見通し」がつくように配慮している。学生にはとかく嫌われがちな異動も、ヨコの見通しや「合わない仕事」からの脱却という意味でとても重要だ。

 中小企業の場合、毎年定期的に新卒採用をしているわけではないので、年次管理が弱く、ジョブローテーションもあいまいだ。そこで、「何年後にどうなる」が見えない。それで、やる気がうせることがままある。説明会や面接で、この点を「前向き」に聞いてみよう。自分の可能性を知るという意味で質問すれば、面接官も喜んで答えてくれるはずだ。

(雇用ジャーナリスト)


     

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