知っておきたい就活情報

【就活のリアル転載】正社員でなくても 非正規職、条件改善傾向に 海老原嗣生(2022/12/13付 日本経済新聞 夕刊)(2022/12/20)


 昨今、「人と接することが苦手」な人でも主役になれるビジネスが興隆している。例えば、飲食店の出前や通販の配達を請け負う仕事。電子商取引(EC)用の大規模倉庫でピッキングを行う仕事。仕切り板で区切られた席で、客と店員が全く会話なくタブレットを通じて注文や精算を行う店。こうした形であまり「人と接しなくても働ける」社会がまた戻ってきた。

 昭和30年代までの日本も、農業・建設・製造・自営業などの分野で、やはり「人と接さず生きていける」仕事もあった。それが昭和末期から平成にかけて一時的に激減していた。しかし令和の世は、「人と接さずに生きたい」人たちに追い風が吹いている。長らく、正社員以外の仕事は低給で雇用状態が不安定というのが通り相場だった。ところが昨今、こうした非正規労働の賃金が上昇している。この流れはしばらく続くので、詳しく説明しておこう。

 従来、パートやアルバイトなどで非正規職に就く人たちは、その7割近くが主婦と高齢者だった。昨今、この両者が激減し始めたのだ。そもそも主婦がパートに就く理由は、子育てなどで仕事を離れ就労ブランクがあるため、正社員としての働き口が見つからないことが大きかった。彼女たちはいわば、性別役割分担の被害者だ。

 それが昨今、育児期間も短時間ワークなどで正社員雇用を継続できるようになってきた。そのため、パートで非正規社員となる主婦が大幅に減っている。

 労働力調査を見ると、2021年までの2年間で女性の非正規社員は62万人も減少している。一方、高齢の就労者は65~74歳が主体で、75歳以上になるとさすがに労働参加者が減る。つまり、前期高齢者の人口が重要なのだが、それが、25年までの5年間で250万人も減少する見通しだ。

 つまり、非正規職がどんどん採用困難になり、条件がアップしているのだ。都心部のファストフード店の深夜帯だと時給1500円を超える求人はざらだ。そのあおりを受け、もともと時給が高めだった配達員や倉庫作業の仕事がさらに高給化している。仮にこの流れで時給2000円までいくと、フルタイムで働けば残業などしなくても、年収400万円近くになる。

 夫婦でこうした就労形態なら世帯年収は800万円に迫る。それでいて、正社員と異なり、会社に滅私奉公などする必要はないし、有給休暇も取りやすい。余暇を活用して家事や育児、介護も夫婦で手分けしてこなせるだろう。あとは、こうした就労形態に対して社会保障を強化し、さらに欧州のいくつかの国のように高等教育を実質無償化していけば生活もゆうに成り立つ。

 もう、就労困難者に対して「正社員になるべきだ」という昭和的な押し付けは、そろそろやめた方がよい。行政による支援まで含めて、令和的な解が求められる。

(雇用ジャーナリスト)


     

前のページに戻る