新型コロナウイルス禍で就活が受けた影の最大の影響はオンライン化であろう。募集広告は既にオンライン化されていたが、説明会やインターンシップの情報提供から適性検査・面接の選考に至るほぼ全ての就活プロセスがオンライン化された。最終面接までオンラインで行う企業もあり、一度も対面で会うこともなく社会人のスタート地点を決める学生も出ている。
オンライン化で学生の負担は減った。スーツ姿で数時間拘束された説明会は、ベッドで寝転びながら2倍速で録画を見ればよくなった。東京での30分の面接のためだけに新幹線代や宿泊費が必要だったのが、パソコンを開けたら2分で面接を受けられるようになった。学生は多くの企業に触れることができ、コロナ以前の倍近い会社を受けられるようになっている。
一方、このことは結果として東京一極集中を進めた。東京の大企業が全国の学生に容易にアプローチでき、これまでは内定者の多くが首都圏学生だったのが、今では半数以上が地方学生という例も珍しくない。学生としてはチャンスが広がったわけだが、地方企業の人手不足はこれでさらに進むだろう。
また、オンライン化が選考にまで及んだことで、ミスマッチが心配されている。適性検査では替え玉受験の事件が起こり、会社側は本人確認など対応に追われた。面接のオンライン化は身ぶり手ぶりや視線、表情などの非言語情報の減少につながり、言葉だけで評価をせざるをえなくなった。面接担当者は口々に「実感がなく、評価に自信がない」と言っている。
しかし、これは杞憂(きゆう)かもしれない。面接の精度の低さは近年問題視されていたが、主に非言語情報から生まれる印象で評価がゆがむことが理由であった。話す言葉に集中して評価することで、かえってバイアスの無い評価ができるようになった企業もある。
例えば、対面では外向的で情緒安定性の高い人が過大評価されていたが、オンラインでは内向的で感受性の強い人もきちんと評価されてきた。面接が苦手な学生にとっては朗報かもしれない。
ただ、オンライン面接は「手触り感」の減少につながり、学生にも「本当にこの会社でよいのか」と不安を与えている。理性的には「よい」と思えても感情的にはその実感がないのだ。一度もリアルに会ったこともなければ当然であろう。
実際に学生の能力や性格と会社や仕事がマッチしているかどうかは重要だが、人は感情で動くものなので「マッチしていると感じている」ことも大切だ。入社後もリモートワークが続き、いつまでも「合っている感」が得られなければ早期退職にもつながりかねない。オンライン化のメリットだけを享受するのでなく、失われた「実感」をOB・OGや職場訪問などで学生自ら補っていく必要があろう。
(人材研究所代表)