企業の採用活動には「オーディション型」と「スカウト型」がある。前者は就職ナビに代表されるように、学生が企業を検索して応募する従来のものだ。後者は近年増えてきている手法で、企業側から学生に対してアプローチする手法である。
代表的なものは、学生が情報を登録しているスカウトメディアと呼ばれるサイトで企業が検索をし、会いたい学生にスカウトメールを送る手法や、社員や内定者とつながりがある学生に声をかけてもらう「リファラル(紹介)」採用などである。
こうした「スカウト型」が伸びている背景には、少子化による人手不足が採用活動を非効率にしていることがある。採用のオンライン化による負荷軽減で応募学生は増えても、全体では内定を出した10人に6人が辞退する時代だ。どれだけ面接しても次から次へと逃げられていく。限界が来た企業側が、もっと効率的な方法として「スカウト型」を志向するのは当然だ。
これを多くの学生も歓迎している。「スカウト型」はある意味待っているだけで企業がアプローチしてくれるので楽だ。書類選考で落とされることもなく、簡単に企業の人事担当者に会うこともできる。何社も落とされて憂鬱になるくらいなら、自分を欲しいと思ってくれる企業を相手に就活をする方がよいのも当然だ。
しかし、この「スカウト型」採用には課題もある。それはこの手法の閉鎖性である。企業側が「会いたい」か、「つながりがある」学生にしか接触してこない手法といえるので、対象から外れた学生は落ちる可能性がなくなるが、入社できるチャンスもゼロになってしまう。ただ、学生自身がそのことに気づく機会はほとんどない。知らないうちにそうなっているのだ。
実際、学生間で機会格差が生まれている。有名校やビジネスに関係する専攻の学生にはスカウトが集中するが、知名度の低い学校や、専攻の内容がビジネスには遠いと見なされがちな文学部や教育学部、理学部などの人にはあまり届かない。当人の知らないうちに、ふるいにかけられているのである。
企業側が悪いわけではない。採用に苦しむ民間企業が生き残るために活動を効率化するのは非難されるべきことではない。しかも、先にも述べたように学生も歓迎している。ただ、世の中で最もタチの悪い問題はたいてい「動機は善、結果は悪」であり、まさにそのパターンにはまっているのではないか。
就活生やそれを支援する学校の方々は、このひそかに進行する機会格差に対応すべきだろう。OB・OG訪問を促進し「リファラル採用」の網にかかりやすくするのもよいし、企業と連携を取ることで自校の学生が「対象」となるようにするのもよい。少なくとも、「就職活動が効率的で楽になってよかった」とのんきに過ごしていてはいけないことだけは確かである。
(人材研究所代表)