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【就活のリアル転載】大企業か中小か 人気でなく、適性で判断を 曽和利光(2023/5/9付 日本経済新聞 夕刊)(2023/05/16)


 約30年間就職活動を見てきたが、毎年「大企業と中小やスタートアップではどちらがよいか」といった議論が学生の間で繰り返されている。結論は「人による」だが、それぞれの特徴を改めて整理したい。

 まず、社数にして1%未満、従業員数にして3割程度の人が所属する大企業について考える。メリットはなんと言っても給与の高さと安定であろう。規模の経済や分業によって生産性が向上することで利益率が高くなり、その分、給与をたくさん支払える。また社会的影響力が大きな仕事ができることもメリットだろう。自分の仕事を知っている人が多いのはうれしいことだ。

 一方、大企業で特徴的な分業は専門性を高めるが、仕事の全体感を持てないこともある。「組織の歯車」という言葉があるが、自分の仕事がどんな全体の一部なのか見えず、疎外感を持つこともある。大企業は事業の勝ちパターンが決まっていることも多く、試行錯誤の楽しみや苦しみを味わうことができないこともある。先人が作った勝ちパターンを徹底的に繰り返せば生産性が高まるからだ。

 次に、社数にして99%以上、従業員数にして7割ほどの中小企業・スタートアップはどうか。勝ちパターンがまだ定まらない状態ならマニュアルもなく、その分生産性は低く、支払える給与も比較的少ないのは事実だ。組織や事業の安定性も劣る。仕事の規模もそれほど大きくないかもしれない。まだ知る人は少ないマニアックでニッチな市場を相手にしている会社も多い。

 ただ逆に言えば、個々人が勝ちパターンを探して試行錯誤ができる楽しみがある。一人でいろいろせねばならず、権限委譲も昇進も早く、小さいながらも全体感を持って仕事ができる。成長市場にいれば、小さい組織で早く昇進しているうちに、知らぬ間に会社が大きくなっていることもある。最近では「中小から大企業への転職は無理」ということもなくなってきた。横断的になんでもできる中小の人材は大企業にも魅力的だ。

 このように「大か小か」という粗い議論でなく、より具体的に特徴を見比べてみれば、「よくわからないから大企業」とはならず、「自分はこちらが好きだ」と好みは分かれるはずだ。

 しかし、実態はそうではない。5千人以上の大企業の求人倍率は約0.4倍なのに対し、500人以下は約5倍と極端な人気の差がある。大企業の競争倍率は100倍を超えるのが珍しくないが、中小企業はそもそも応募者がなかなか来ないという場合もある。学生はこぞって大企業を受けているのが現状だ。

 自分との適不適を検討した上でのものであればよいが、個々の声を聞いている限りではそうではない。就職活動はマッチング(適材適所)だ。人気ではなく、適性を見て行き先を決めることを強くお勧めしたい。

(人材研究所代表)


     

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