「東京一極集中」という言葉がちまたでけん伝されて久しい。実際に東京圏(一都三県)の人口は新型コロナウイルス禍までは増加基調で、国土交通省の推計では2018年で約3658万人と全国の約3割である。
一方、三大都市圏を除く地方の人口比率は減少傾向で、18年で約6031万人と全国の約5割である。東京圏への転入超過数の9割以上が10代後半から20代の若者であり、進学や就職によって東京一極集中となっているのは明らかだ。
ところが意外なことに、若者の間で地方志向が増えている。マイナビの約6千人の大学生への調査で「地元以外の自然が豊かな地方で働いてみたいと思いますか」という問いに、22年卒の学生は43.2%が「はい」と回答している。
また、同調査の「勤務地・居住地域の理想は」との問いには「東京に住みたい」は12.7%と減少傾向なのに対し、「都市(東京以外)」が30.2%とほぼ横ばい、「地方に住みたい」が57.0%と増加傾向にある。
つまり、東京一極集中は「若者が東京に行きたがる」から生じたのでなく、東京圏の企業の採用努力のたまものともいえるかもしれない。例えば、コロナ禍で浸透したオンライン採用だが、リクルートの調査ではオンライン面接の実施率は関東地方で85.5%に対し、北海道・東北地方では67.1%にとどまり、他の地方も関東圏より低い。
オンライン面接は負荷も低いので学生に歓迎されているのに、実施していない地方企業が多いのだ。また新しい採用手法で、学生が情報を登録しているスカウトメディアというサイトの利用率も約半数が東京などの大企業なのに対し、地方に多い300人未満の企業の利用率は2割程度にとどまる。
ちなみに「そもそも地方には若い人がいない」というのはあまり当たらない。経済市場規模よりも、大学生は広く全国に分散しており、東京圏が約30万人なのに対して、関西圏はその半数の約15万人、東海圏で約6万人だ。地方は北海道・東北や中四国、九州でそれぞれ5万人前後はおり、東海圏とそれほど変わらない。地方にも若い人はたくさんいるのだが、それを東京圏の企業に取られてしまっているのである。
結局のところ、地方企業でよく聞かれる採用難の理由は、とても厳しい言い方をすると、採用活動において「やればできることをやっていない」からだけではないかとも思える。
オンライン採用もスカウトメディアも、コストもマンパワーもそれほどかからないうえ学生の負荷が低いので、知名度の低い地方中小企業向きなのだが、実際にそれをやっている会社は東京や大手の企業の方が多いのである。
学生の志向は「地方で働きたい」なのだから、例えばここに伸びしろがあるのではないだろうか。
(人材研究所代表)