知っておきたい就活情報

【就活のリアル転載】不採用の理由に誤解 具体的な事実で裏付けを 曽和利光(2023/8/1付 日本経済新聞 夕刊)(2023/08/08)


 いくら売り手市場とはいえ、人気企業を受ければ学生も選考での不合格をまぬがれない。多くの会社では不合格の理由は明らかにせず「慎重に総合的に判断した結果」として通知をするので、学生は不合格の理由を「あの回答が不適切だったのか」「どういうところが合っていないと思われたのか」などと自分であれこれ想像するしかない。

 しかし、それはほとんど無駄な努力だ。なぜかと言えば、多くの学生が不合格になるのは、「合ってない」とみなされたからではなく、評価するための情報量が足りないからなのである。選考担当者は「候補者の評価は事実に基づいて行う」ということを徹底的に訓練されている。具体的な事実からその人の性格・能力・価値観を推定して評価を行う。それなのに多くの学生は具体的な事実を全然伝えていないのだ。

 例えば、「私は達成意欲があります。どんな高い目標でも最後までやりきることをモットーとしています」と自己アピールしても、そこには具体的情報は一つも入っていないので、選考担当者はうのみにすることはない。彼らが思うのは、「では、エピソードなど具体的な事例でそれを証明してほしい」ということだ。事実によって裏付けられなければ情報量はゼロだ。

 なぜこのようなすれ違いが起こるのか。学生に面接で気を付けるべきこととして、どんなアドバイスを受けているのかを聞いてみると、理由がわかってきた。彼らは「わかりやすく回答しなさい」と言われ続けているが、ここでの「わかりやすく」とは「簡潔にまとまっていて意味がわかる」ということだ。「最初に結論を」「ポイントを箇条書きで」といった指導を受けている。

 しかし、選考側にとっての「わかりやすさ」とはそうではない。「具体的な事実が多く含まれており、イメージができる」ことなのだ。簡潔で抽象的な話は、もちろんその意味はわかるのだが、イメージができない。それでは評価のしようがない。

 例えば、アルバイトについて「都心の大きなカフェで働いていました」と多くの学生は言う。しかしこれは全く具体的ではない。「都心」とは渋谷なのか丸の内なのか。「大きな」とは何席くらいなのか。「カフェ」とはどんな業態の店を指しているのか。「東京駅の1日1000人のお客様が来るスターバックスで、店長を含めて5人で回していた」と言われれば、イメージがわいて、評価をすることがやっとできる。

 面接やエントリーシートではとにかく具体的事実を入れ込むべきだ。固有名詞や数字を用いる。「切磋琢磨(せっさたくま)していた」等の比喩表現は避け、実際何をしたのかを書く。文章表現としては雑多な印象になるかもしれないが、文学的に優れている必要はなく、自分をイメージさせることこそが就活では重要なのだ。

(人材研究所代表)


     

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