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【就活のリアル転載】「志望度」優先のわな 仕事との相性こそ重視を 曽和利光(2023/8/22付 日本経済新聞 夕刊)(2023/08/29)


 採用面接で学生が頭を悩ませる質問の一つが「どれくらい当社に入りたいか」という志望度だ。現在の売り手市場で企業からスカウトがどんどん来る状況では、多くの学生は「なんとなく誘われたから」「有名で気になったから」くらいの気軽な気持ちで受けている。しかし、本音を言うわけにいかないので、学生は苦労して、志望度を「作文」しているのが実態だ。

 一方、多くの企業はいまだに志望度を重視し、どれだけ自社のことを強く志望しているかどうかで評価している。もちろん同じ能力の人ならば、志望度の強い方が入社してから頑張るだろうから一定の道理はある。ただ、上述のように本音ではなく「作文」された志望度を評価する意味があるだろうか。

 また、優秀な人材ほど引く手あまたで、相対的に1社あたりの研究度や志望度は低くなる。それなのに、自社に対する志望度で評価を行えばどうなるか。優秀な人材から順番に排除することにもなりかねない。本当は自社にどれくらい入りたいかではなく、仕事や文化に合っているかが重要ではないのか。

 もはや現在においては、「志望度」で評価を行うのは最適な評価手法とはいえない。志望度は「評価するもの」ではなく、採用担当者が頑張って候補者を動機付けして「上げていってもらうもの」なのである。実際、現状をきちんと分かっている先進的な企業や採用担当者は、出会ったばかりの初期選考などで志望度を聞いてもしかたないことを知っている。「うちは志望度を重視しません」と明言する大企業もいくつもある。しかし、それは一部だ。

 なぜいまだに志望動機を重視する企業が多いのか。一つの理由は採用難時代に志望度の低い候補者にマンパワーを使っても、最終的には辞退されてしまうことが多いことだ。現在、平均すると内定を出しても2人に1人しか受諾をしない。そのため、最初から来てくれそうな「楽な人」にだけ内定を出そうと採用担当者が考えてしまうのも無理はない。

 もう一つの理由は、採用難を理解していない経営幹部の存在だ。彼らは最終面接で志望度の低い候補者が来ると、採用担当者に「なぜあんな志望度の低い人を上げたのか」と叱責する。本来なら低い志望度にもかかわらず、最終面接まで持ち込んだことを称賛せねばならないのに逆のことをしているのだ。

 優秀だが志望度の低い人材になんとか選考へ参加してもらったのに叱責されるのであれば、それほど自社には合わないが志望度の高い人材を合格にしておく方が楽だし、叱責もされない。それなら、志の低い採用担当者はそちらに流れるのは当然である。しかし、それは採用としては怠惰と言わざるをえない。学生の志望度を上げようと努力する会社と、志望度で評価をしようとする会社の人材の質はどんどん開いていくことだろう。

(人材研究所代表)


     

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