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【就活のリアル転載】納得できる進路決定 企業は悩む学生に伴走を  栗田貴祥(2023/9/5付 日本経済新聞 夕刊)(2023/09/12)


 「就職活動を納得感を持って終えること」は、個人にとってはもちろん、企業にとっても理想のあり方だろう。

 ただ、リクルート就職みらい研究所の「就職白書2023」の調査では、就活を終えた23年大卒者に終了理由を聞いたところ「内定を取得した企業に入社したいから」(89.0%)に次いで「できるだけ早く内定を取得し、就職活動をやめたかったから」が30.5%、「就職活動を続けることに疲れたから」が7.5%と、進路選びの意思決定に消極的な様子が見られた。

 また、「就職活動終了時に自分らしい進路選択ができたかどうか」を100点満点で問う調査では、学生は平均が77.5点だったのに対し、入社3年目までの若手社会人では56.5点と開きが出た。入社後に意思決定への自己評価が大きく下がることが分かる。

 進路選択に納得感がない場合、早期離職のリスクにつながる。労働政策研究・研修機構(JILPT)が行った調査では、「『給与』や『労働時間』、『仕事内容』などの情報において、採用前の情報と入職後3か月の現実の内容が一致しなかった若者は、3年以内の離職率が高い」と結論付けている。

 では納得感のある、自分らしい進路決定をするには何が必要なのか。当研究所が実施した若手社会人を対象とした調査の分析からは「自分のことを客観的に理解する」自己探索と、「自分が知らない仕事や職業の世界を知るため情報収集や対話をする」環境探索を深められるかが、「自分らしさ」を感じられることにつながると推測できた。

 客観的な自己分析には、身近な社会人である大学の先生や親、キャリアセンターの担当者や人事担当者など「社会との対話」が必要になる。企業側も、学生との対話を深めるキャリアアドバイザー的な立ち位置で、個人のこれからの働き方や、仕事を含めた人生を一緒に考えていく姿勢が求められるだろう。

 学生の自己探索や環境探索をサポートした事例として、大手外資製薬会社の取り組みがある。同社では「外資だから雇用が不安定そう」「成果主義が厳しそう」といったイメージや思い込みから内定を辞退する学生が多かった。

 そこで「自分の価値観を再発見する」ための独自のキャリアデザインツールを開発。個々の学生に向き合い、自己分析の支援を進めた結果、曖昧な理由で内定を辞退するケースが減り、辞退する際も「大事にしている軸とは違うから」と深い内省による自身の判断軸に基づくようになったという。

 自己探索に寄り添った結果、内定辞退となったとしても、企業ブランドイメージの向上や長期的なファンづくりにつながっていく。納得感のある進路選択を支援することが、企業の新たな採用のあり方になるのかもしれない。

(リクルート就職みらい研究所所長)


     

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