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【就活のリアル転載】「コミュ力」偏重の謎 「育てにくい資質」こそ大切 曽和利光(2023/11/14付 日本経済新聞 夕刊)(2023/11/21)


 企業の採用基準は基本的に「社内で育てにくい資質」を中心につくるべきである。最初から様々な資質を持っている人はなかなかいない。また今後育てられる資質なのに今は持っていないからといって、他に良い資質のある人を採用しないのはもったいない。

 この理屈は容易に理解してもらえると思うが、実はこの「育てられる資質」なのに採用基準になっているものの一つがコミュニケーション能力だ。経団連がコロナ前まで実施していた新卒採用に関するアンケート調査で、企業が「選考時に重視する要素」は16年連続で1位がコミュニケーション能力であった。

 2位以下は主体性、チャレンジ精神、協調性、誠実性と続く。しかし、コミュニケーション能力は「育てられる資質」かもしれない。知能の研究で有名な心理学者レイモンド・キャッテルは、過去の学習経験を適用して得られる知能を「結晶性知能」と呼んだ。結晶性知能は20歳以降も上昇し、高齢になっても安定しているという。例えば「理解力」「洞察力」「想像力」などがあるが、その中に「言語能力」や「コミュニケーション能力」なども挙げられている。

 確かに私自身の経験でも納得感がある。新人の頃は拙い話し方しかできなかった人が、経験を積むにつれ、人前で立派なプレゼンができるようになる例はいくらでも思い浮かぶ。私も元々内向的で人前で話すことは苦手だったが、今ではもう慣れてしまって緊張することはあまりない。また、人と交渉することや、親密な関係を築くこと、場の空気を読むことなども経験から学んでどんどんうまくなっていく人は多い。

 しかも、採用時に重視されるコミュニケーション能力とは、主に面接におけるそれだ。面接は、初対面の大人にいきなり人生を根掘り葉掘り聞かれて、短時間で評価されて合否をつけられるという極めて特異な場だ。そんな場で緊張したり、うまく自分をプレゼンできなかったりすることがどうだというのか。能力には「領域固有性」があり、面接ではダメでもふだんの場ではうまく話せる人はいくらでもいる。

 むしろ、面接でコミュニケーション能力を発揮しなければならないのは面接官の方ではないか。学生は毎年変わるので「就職のプロ」などいない。しかし長年面接に携わっている「採用のプロ」はいるはず。学生の話が拙いなら、面接官がうまく質問して資質を引き出してあげればよいだけのことだ。

 採用面接で評価しなくてはならない資質は世の中の高業績者に共通して多い「やりきる力」「自己認知の正確さ」「当たり前とする水準の高さ」や、「自己動機付けの力」「目標達成力を自らが持っていると認識できるか」など、他にたくさんある。それらを面接で伝える力がないというだけで、ダイヤモンドの原石を埋もれさせてはならない

(人材研究所代表)


     

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