ある大学1年生の親御さんから、「子にGPS(全地球測位システム)を持たせるのはやめた方がよいですか」と質問された。大学生にGPSを持たせるとは、と耳を疑った。にわかには信じられず聞き間違いかと確認したが、小中学生のころからそうしていたので、今もGPSを持たせたままだという。
おそらく専用の機器ではなく、スマートフォンの位置情報を得ているということかもしれない。ちなみにそのお子さんは男の子。親子の密着度の高さはここまできているのか、と驚いた。
先日、親向けの就職ガイダンスをある女子大学で行ったが、大変な盛況ぶりだった。両親そろって参加する姿も目立ち、大学の担当者は「学生向けの就職ガイダンスの何倍もの参加者です」と苦笑していた。親向けのこうしたガイダンスが開かれるのは私立大学ならば通常のことである。その女子大学は学生一人一人に対しての対応が手厚く、全員に就職面談がある。学生への丁寧なフォローで就職率は全国平均を上回っている。
私がそこでお伝えするのは、子とはほどほどの距離感を保ってほしいということ。無関心でも過干渉でもなく、あくまでも親として経済的、精神的なサポートに徹してもらう。就職活動は本人主体で、細かな指導方法などは大学のキャリアセンターに任せてほしいのだ。
なぜなら親子には約30年という時代の開きがある。産業界がすっかり様変わりしている。例えば30年以上前の人気企業ランキングを見ると、1991年大卒予定者(文系)では上位5社は1位から順に全日本空輸、三井物産、伊藤忠商事、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)、日本航空だった(マイナビの前身、毎日コミュニケーションズ調べ)。
それが2024年大卒予定者(同)のランキング(マイナビ・日経調べ)では、1位からニトリ、東京海上日動火災保険、JTBグループ、ファーストリテイリング、伊藤忠商事と大幅に顔ぶれが変わった。
また、約30年の違いは特に女性の生き方を大きく変えた。初婚年齢は25歳から限りなく30歳に近づいており、女性の育児休業の取得率は80%を超え、男性の取得率も17%を超えた。
男性が働き、女性は家庭を守るという人生モデルの時代は終わり、男女ともに助け合ってワークライフバランスを取りながら仕事も家庭も両立させる時代になっているのだ。男性が育児休業をとるということが、肌感覚でわかっている親御さんはまれだろう。女性も一生働く時代だ。
大学生の親は多くが50歳を超えたシニア世代である。親御さんは子の就職に手出しや口出しをせず、本人に任せて自分自身の定年後について考える時かもしれない。子離れ親離れの時が来ている。
(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/