企業から内定をもらっても受諾しなければ、学生は入社する必要はない。企業の回答期限までの間に、入社意思が固まった後で受諾をすればよい。しかし、内定受諾後でも辞退する学生が多く、企業は苦労している。リクルート就職みらい研究所の「就職白書2023」では、内定後辞退は46.5%にも上る。
私は長年採用する側で就職活動を見てきたので、学生が「入社します」と受諾した後に「やはり別の会社に行きます」と辞退することが採用担当者に与える衝撃はわかる。企業は1人の内定者を出すのに何百人も選考し、入社先として選んでもらえるよう動機づけする。その努力が突然無駄になってしまうのだから、徒労感は計り知れない。
また、法的に企業側からは内定を勝手に破棄できないので、内定受諾者のために採用枠は必ず空けておかねばならない。すると枠外になった学生に不合格を出すことになる。少人数しか採用しない中小企業であれば特にその影響は大きい。自社にフィットした人材が5人いても採用目標が3人なら2人は不合格となる。それなのに内定を受諾したはずの学生が辞退したら、企業も他の不合格になった学生もぶぜんとすることだろう。
このような背景から近年「オワハラ(就職活動終われハラスメント)」が問題視されている。内定後、企業が学生に執拗に就活終了を迫るというものだ。他のハラスメントと似て、欲しい学生に「是非うちに入社してほしい」と口説くことがどこまで許容範囲かの判断は難しい。迷っている人に就活終了を迫るのはいけないが、学生が「入社します」と言うなら「では就活は止めてくださいね」と言うのは自然なことに思える。
しかし私は、以上のようなことを踏まえても内定受諾後の辞退は致し方なく、許容されるとさえ思う。内定受諾後に辞退された採用担当者には学生に怒りを覚える人もいる。噓をついたとか、倫理的にどうなのか、と。それが「オワハラ」につながるのかもしれない。ただ、それは行き過ぎた感情ではないか。
採用担当者がどれだけ真剣に学生に対峙していたとしても、その人の一生を背負うわけでもなく、結局は内定者リストの1行にすぎない。一方で学生にとっては一生を左右する大問題だ。両者にとって内定の重みが全く違うのである。
もちろん、一人の成人が明確に約束したことをほごにするのは良いことではない。ただ、人生の一大事に迷いが生じて気が変わることは誰にでもある。また、内定を出すまでは学生よりも企業の方が強く、受諾をしないと内定をもらえないという暗黙の圧力もある。
そう考えると内定受諾後の辞退は様々な人に迷惑をかけるのは事実だが、企業も許容しなければならないし、内定受諾後に辞退する学生はその重みを理解しながら、勇気を持って自分の信じた道を歩んでもらいたいと思うのだ。
(人材研究所代表)