「ベンチャー企業の方が成長できるのではないかと思い、そちらへの就職を考えています」。都内の私立大学3年の女子学生からの相談だ。就職を自分の成長機会ととらえている意欲的な人だ。
今の段階のインターンシップではベンチャー企業だけでなく大企業、中小企業など幅広く様々な企業を比較検討するのがよいだろう。それぞれのインターンシップに参加し、よく検討したうえで自分に合っていると考えてベンチャー企業に決めるのならば、それも良いと思う。
そもそも「ベンチャー」の語源は「冒険的な」という言葉から来ている。新たな分野に挑んでいくという意味で、新しいビジネスモデルの新興企業をそう呼ぶのが通例である。今や世界的な大企業群となったGAFAも元はベンチャー企業だった。
しかし、事業内容に目新しさがなく、単に少人数で小さく始めただけの会社はベンチャーとは呼べない。それなのに、カタカナで耳ざわりよく聞こえるようにベンチャー企業と自称していたら要注意である。
なぜなら今どきの大学生はベンチャー企業にひかれがちだからだ。若者だけで、活気ある会社に見えて魅力的に違いない。しかも冒頭の学生のような意欲的な人が誘われやすい。だが今まで30年間学生の就活を支援してきて、ベンチャー企業に入って失敗した人の例をたくさん見てきた。
「インターンシップからそのまま入社して、ずっと学生時代と同じ電話営業のテレアポをさせられた。もちろんボーナスは出ないし、疲弊してしまった」とか、「尊敬できる社長だと思って入ったが、社長以下、誰も決算書が読めずPL(損益計算書)も貸借対照表も知らないどんぶり勘定で自分が教える立場だった」ことも。さらには「入社1年目に会社が倒産して途方に暮れ、働く意欲を失った」という人さえいた。
ではベンチャー企業に入るメリットは何なのか。それは起業のノウハウを知ることができるという点だ。少人数で会社経営をするところに参画でき、経営者目線が養われる。ということは、将来自分で起業したいという希望を持っている人ならば、大きなメリットがあるということだ。そこで成功も失敗も学べるだろう。
自らが「成長できるから」という学生のその「成長」の目指すところ、ゴールは何なのか。自分で起業することならばベンチャーへの就職は大いに意味あるものになるだろう。
私もベンチャー企業創業者のはしくれとして大いに応援したいが、学生の新卒就職では慎重になってほしい。就職で有利になる新卒というプラチナカードを大事にすること。大企業に入って学べることも多く、その後で起業しても良いのだ。いろいろな道を模索するためのインターンシップである。
(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/