就職活動をする学生は毎年新しい人になるので、初めての面接に慣れていないのは当然だ。この道十年の「就活のプロ」などはいない。一方、採用担当者は経験が何年かはあり、それで飯を食べている「採用のプロ」はたくさんいるはずである。
だから本来、学生は就活対策などしなくてもよい。コミュニケーションはどちらかがたけていれば成立する。面接担当者が上手に質問すれば学生は普通に答えるだけで、評価に必要な性格・能力・志向を引き出してくれるはずだ。
ところが残念ながら現実はそうではない。人事の世界では常識だが、採用面接の精度はそれほど高くない。相当な訓練を積まなければ、適性検査など他の選考手法の精度にも及ばない。大きな理由は二つある。一つは「具体的に聞くということができない」、もう一つは「アンコンシャス・バイアス」だ。
なぜ具体的に聞くことができないのか。それはコミュニケーション能力の高い人ほど、相手の情報の穴を想像力や過去の経験や知識などで埋めて理解することができるからだ。日常会話ではそれでよい。
しかし、面接で相手が言ってもいないことを想像で埋めて理解し評価してはいけない。「都心の大きなカフェでアルバイトをしていた」と言われたら、「都心」が渋谷なのか丸の内なのか聞かなければならない。「大きな」というのは何席くらいで、何人くらい働いていたのか聞かなければならない。このように学生との面接に慣れているからこそ自然と浮かんでくる想像を排除して、具体的な内容を聞き取ることはかなり難しい。
もう一つのアンコンシャス・バイアスとは、直訳すると「無意識の偏見」のことを指す。「自社で活躍できる人材はこんな人だ」「体育会で主将をやっている人はこんな人だ」という固定観念だ。これは採用面接の経験が多くなればなるほど、強くなるとされている。
面接担当者は最終面接に近づくほど、長年経験を積んできた偉い人が多くなるのでバイアスが強くなる。つまり、より重要な面接になってくるほど、相手は偏見の強い人になるということだ。
このような背景があるため、結局、就活生は「対策」をしなければならなくなる。面接担当者が具体的に聞いてくれないので、こちらから具体的に話す訓練が必要になる。彼らが固定観念で見てくるので、その誤解を排するための説明を準備することが必要になる。この2つが面接対策の本質だ。
これ以外の対策はいらない。「どうすれば受かるか」ばかりを考えてしまい、面接担当者のバイアスにうまく乗って合格を得ようとする人もいる。そう指導するアドバイザーもいる。しかし、就活で最もしていけないのは「合わない会社に入ること」だ。過度な対策はミスマッチを招くことがあるので注意が必要だ。
(人材研究所代表)