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【就活のリアル転載】障害者雇用率引き上げ 多様性融合、成功例に学ぶ 上田晶美(2024/4/2 日本経済新聞 夕刊)(2024/04/09)


 全盲の美容師さんにヘッドスパを担当してもらった。ヘッドスパとは特別なトリートメントに頭部のマッサージなどがついたサービス。主に髪質改善のためだが、ぜいたくだと思ってそれまでしたことがなかった。

 全盲の美容師Nくんと知り合い、全盲で美容師ができるの?それはすごい! 一度受けてみたいと思って予約した。彼の職場の売り上げに貢献したいという思いと、彼の働く姿や、どんな職場なのか見てみたかったからだ。

 彼はその美容室の中で蝶(ちょう)のように軽やかに舞っていた。言われなければ盲目とは気づかないくらいに。シャンプー台に案内し、台を上手に調整して倒し、タオルをかぶせ、熱さの加減などを聞いてゆっくりとシャワーをかける。ごくごく自然な流れだ。

 ハサミを使うカット以外はほとんどの作業ができるらしい。しかも指先の感覚などが優れているためか、マッサージは抜群にうまい。聴覚はもちろんのこと、嗅覚にも極めて敏感だそうだ。トリートメントの香りの調合が絶妙である。個人を香りで覚えるとも言っていた。

 中途失明のNくんのこれまでの努力は並大抵ではないと思うし、働く姿に接したことは感動体験だった。その彼を雇い続けているオーナーも素晴らしく、その日も6~7人いる美容師さんたちを司令塔として軽快に采配していた。美容師の仕事はシャンプー、カット、染め、ドライなど分業化されている。オーナーに話を伺うと「外では優しくされているだろうから、職場では逆に厳しくしています」と言う。健常者と同じ扱いで指示しているのがなんとも気持ちよい。

 また、私が気づいたのはその美容室のスタッフ同士のチームワークの良さとホスピタリティーだ。皆が彼の行く方向を塞がないように、ワゴンをさりげなく少しずらして道を開けている。お客の方だけでなく、360度目配りしている感じだ。もちろんお客の私にも全員が親切にしてくれる。少しせき込んだらほかのスタッフがさっと飴(あめ)を渡してくれた。これほどホスピタリティーあふれる美容室はなかなかない。それには彼の存在が大きいのではないかと感じる。Nくんの頑張りを周囲は見ていて、彼に協力する気持ちがチームワークにつながっているのではと拝察する。

 この4月に法定の障害者雇用率は2.3%から2.5%に引き上げられ、2026年度中には2.7%になる。法律上だけでなく、障害者雇用が適正に進めば、経済効果もありそうだ。働く上での多様性の融合を進めることに反対する人はいないと思うが、もちろん現実としては難しい職場もあるだろう。こうした現場の成功例をより多く知ることが、障害者雇用の促進につながればと願っている。

(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/


     

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