新卒採用でも職種別採用、いわゆる「ジョブ型」採用が広がっている。採用支援サービスのヒューマネージ(東京・千代田)の調査では、2024年3月卒の新卒で全員を職種別採用で採用する予定だった企業は約4割、全てではないが一部で職種別採用を行う企業を合わせると、約6割の企業が職種別採用を実施している。日立製作所やソニーグループ、KDDI、大和ハウス工業など多くの有名企業でも導入されている。
「ジョブ型」採用が広がっているのは学生のキャリア意識が向上し、どんな仕事がしたいのかがはっきりしてきていることにある。配属を確約してもらうことで安心感が生まれ、入社の意思決定がしやすくなる。企業からすれば採用しやすくなるということだ。実際、「ジョブ型」採用にしたことで、データサイエンティストなど採用困難職種が採れたという話はよく聞く。
また、各職種の専門化が進んだ現在、「ジョブ型」採用は合理的でもある。職種毎に細かく専門スキルの要件が違う。学校の専攻は、大昔は「そんなもの関係ない。入社してから自社で育成する」という企業が多かったが、現在はそうもいかない。基礎的な学習をしていない人は初めの一歩も進めない仕事領域も増えた。そこで採用選考も学歴だけでなく、学習歴や研究歴など「中身」をより一層重視するようになっている。
だが、学習歴を重視するのはいいが欠けやすい視点がある。それが性格や基礎的な能力などのパーソナリティーだ。必要な領域を専攻していればその仕事に向いている訳ではない。例えば理系科目が得意というだけで医学部に行く人は一定数いる。
しかし、医者に必要な手先の器用さや動じない胆力、患者をおもんぱかる洞察力などを持っているかはわからない。エンジニアでも、ハードウエアとソフトウエアでは、前者は物理的・法的な制約が多く、関係者との根気のいる密なすり合わせが必要だが、後者はむしろ物事に捉われず自由な発想をする力が必要だったりする。しかし、それぞれが適したパーソナリティーを持っているかはわからない。
もし、パーソナリティーの観点を重視せずに、専門スキルに偏って選考をすれば、必然的にミスマッチも生じやすい。だが「ジョブ型」では、これまでの「総合職」採用のように簡単に異動させることはできない。ミスマッチが生じればそのまま我慢するか、社外に転職してもらうかしかなくなってしまう。
今の「ジョブ型」採用企業にその準備があるだろうか。日本の大企業の離職率や中途採用比率はまだまだ低く、社外流動性(人の出入り)の乏しさが垣間見える。「ジョブ型」採用をするなら、選考の精度を高めるか、人材の社外流動性を高めるかしなければ、専門スキルだけは保持しているミスマッチ人材が社内にとどまり続けることになってしまわないだろうか。
(人材研究所代表)