知っておきたい就活情報

【就活のリアル転載】親の関わり方 経験則通じず、口出し無用 上田晶美(2024/5/14日本経済新聞 夕刊)(2024/05/21)


 お昼時に大学生を見てみると、コンビニエンスストアで買ってきた軽食を食べる人が多いが、お弁当持参の人も目に付く。「自分でお弁当をつくっているの? 偉いねー」と声をかけると「いいえ、母が」と言う。今どきの大学生の親との関係性を物語る光景だ。

 手作りのお弁当は添加物が少なく栄養バランスもとれていそうで、何より親の愛情のたまものである。大学生の親子の密着度の高さを感じる。私自身も3人の子育てをして、約20年にわたり子どものお弁当を作ってきた経験から、その大変さは身をもって知っている。私の料理の腕前は「たまに作るなら楽しい」というレベル。毎朝の弁当作りとなると決して楽しい記憶とはいえず、今ではよく乗り越えてきたと思う経験である。

 いくら親の愛は見返りを求めない「布施の愛」といっても、それだけ手をかけ、愛情を注いだ子どもの就職が気にならない親はない。ましてや大学生になってもお弁当を作っている関係性だ。

 母親だけではない。就職となると父親が登場する。知り合いのある父親が私に質問してくれた。「専門家として自分のお子さんの就職にはどのように関与なさったのですか?」 私の答えは「ゼロ」。「困ったら言ってね」とだけ伝えておき、自分からは手出しはしなかった。

 そのように学生の親向けの講演でも公言しているわけなので、言行一致でないとおかしな話だ。長男は「最終面接の練習をしてほしい」と言ってきた。次男は「作文を見てほしい」だった。長女は「インターン先が探せない」と言うので、大学のキャリアセンターで相談するように言うと、そこで見つけてきた。それぞれ就職して、今のところ元気に働いている。

 知り合いの父親も受験期の経験から「口出しすると子どもからウザがられるだけだから」と分かってはいたが、ネットサーフィン好きなので、就活についていろいろと調べまくったそうだ。そこで親と子の世代の30年の違いにあぜんとしたという。

 親は手書きで履歴書を書いていたが、今では自己PR動画を録って会社のサイトにアップし、それを会社は人工知能(AI)を使って判定している。これは口出しできるものではないと思ったそうだ。自分の経験則で話をしても、若い世代には全く役に立たないということがビジネスの多くの場面で起こる。例えばバブル期の上司からのアドバイスで「得意先とは飲みに行けば何とかなる」と言われても、今はそんな飲み会の機会もない。

 就職に関しても「親の経験は過去の遺産」ということを肝に銘じ、下手に口出ししないというのがよろしいかと思う。親は子どもの就職も大事だが、それよりも自分自身のシニア期の過ごし方、やりがいになる仕事探しに注力したいものだ。

(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/


     

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