知っておきたい就活情報

【就活のリアル転載】青田買いがむしばむもの 国こそ研究開発に投資を 曽和利光(2024/7/9付 日本経済新聞 夕刊)(2024/07/16)


 就職の話題で「学歴」に関するものは多い。特定の学校を偏重する「学歴フィルター」への批判などもよくある。

 しかし、そもそも日本は学歴社会ではない。大卒よりも修士が、修士よりも博士が採用において重視されることはない。むしろ、博士が就職先に困っているという状況すらある。日本では学校歴は重視されているかもしれないが、少なくとも修学歴(教育段階別の経歴)はあまり評価されていない。

 さらに、修学歴で見ると日本の低学歴化は進んでいる。文部科学省の調査では大学院へ進学する人は学部卒の1割強しかなく、しかも近年徐々に低下している。

 経済協力開発機構(OECD)の調査などでの国際比較を見ると、先進国などで大学院進学率が2割を超す国も多い。研究者だけでなく経営者なども修士や博士が珍しくない欧米と比べると、もはや日本は低学歴国と言ってもよいかもしれない。

 原因は様々あるだろうが、一つは、少子化による人手不足で企業が大卒者の採用を強力に推し進めていることにあるといわれる。

 大学教授の知人の話を聞くと、研究者として将来を嘱望されている優秀な学生を、企業がどんどん連れ去っていくという。もしかすると、彼らは日本の学術研究のリーダーとなり、技術立国日本(の復活?)を支えたかもしれない。それをまさに青田買いで、実がなる前に買い取ってしまうというわけだ。

 しかし、職業選択の自由は憲法で保障されており、学生たちも無理やり企業に拘束されているわけではない。進学と就職をてんびんにかけ、じっくり検討した上で企業への就職を選んでいる結果が現状である。就職よりも進学が魅力的なのであれば、当然そちらを選んだはずだ。

 大卒者の獲得競争をしているという点では、大学院進学と企業の採用は競合だ。大学院と企業の学生獲得への熱量は明らかに後者が圧倒的と言わざるを得ない。その結果、大学院進学率が下がっているのである。

 ただ、大学や研究機関にいる方々のせいにもできない。国立大学が法人化されて財源確保に苦労している影響もあってか、日本全体の研究開発費の伸び率は低い。若手研究者のポストが減り待遇が悪化すれば、大学院が進路として厳しいのもわかる。

 結局、企業も大学も国のつくり上げた環境の中で必死にもがいて頑張っているだけで、低学歴化やそれによる技術力の低下の責任を彼らのせいにするのはおかしい。

 本来は国がもっと研究開発に投資を行い、大学院に進学して研究者となる魅力を醸成すべきなのだ。何が当たるかわからないフロンティアを担当するのが研究だとすれば、投資対効果を求められる企業や法人となった学校では対処できない。それができるのは国だけではないだろうか。

(人材研究所代表)


     

前のページに戻る