就職面接で必ず質問されるものの一つに「あなたが会社や仕事を選ぶ際の軸はなんですか」がある。「ポイント」ではなくなぜか「軸」が多い。多くの学生の本音は「まだよくわからない」「ぼんやりとしていて明確ではない」だ。しかし、そんな回答では落とされると考え、就活生はむりやり軸を作り出す。
学生の当たり障りない軸を聞いて「へえ、そうなのか」と面接担当者が思うだけなら、それほど問題ではない。ところが、面接で何度も軸の話を繰り返すうちに、本来その場しのぎだったはずの軸を、学生は自己洗脳して本当の軸だと思い込む。これが問題となる。
学生の軸が本物ではなく、捏造(ねつぞう)されたものであると見抜くのは比較的容易だ。なぜその軸になったかという「きっかけ」、その軸についての「意見」、その軸に関して「行動」に移していることを聞けば、根っこのある意思なのかどうかはわかる。
残念ながら、学生が話す軸は面接対策で捏造されたものが多い。ただ、これ自体は当然のことで、評価を下げる必要はない。問題なのは、ミスマッチの温床になるということだ。捏造された軸で会社を探して見事内定を得て入社しても、本当の軸ではないから、その後「こんなはずではなかった」「それほどやりたくなかった」となって、五月病や早期退職につながる。
また、キャリア理論で有名なクランボルツ博士の「計画された偶発性理論」のように、この変化の激しい時代では、若いうちは「どんなことでもまずやってみよう」と、キャリアにオープンマインドである方が結果としてよいことが多い。できるだけ若いうちからキャリアの方向性を固めるべきなのは、イチローさんや大谷翔平選手のようにスポーツ、芸術や職人の世界、その他の超専門職くらいだ。
それなのに、単なる面接対策だった軸に視野を狭められ、「配属ガチャ」などと言い出し、軸に合わない配属であればモチベーションが下がる。本当の軸ならわかるが、もし捏造された軸なら自分でチャンスを潰しているわけで、もったいない話だ。
何から変えていけばよいのか難しいが、まずは学生ではなく、企業側が先に考えを改めてはどうか。20歳そこそこの若者が確固たる軸を既に持っていることはそれほど重要だろうか。
もっと言えば、企業側が学生に軸を聞き評価する手法そのものに「自縄自縛の空論」としての弊害があるのではないかと疑っている。面接担当者は学生の話に一貫性がないと、軸がないとして違和感を持ち不安になる。そして、その不安を正当化するため、候補者の能力を不当に低く評価してしまう。
一方で「配属ガチャ」問題のように、軸が明確な学生ほど配属先などの志向が狭くなり、組織運営のうえで柔軟性が欠けてしまうことに悩んでいる。これこそ解決すべき矛盾ではないか。
(人材研究所代表)