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【就活のリアル転載】中小企業の見分け方 社長の考え方見極めよう 上田晶美(2024/8/6日本経済新聞 夕刊)(2024/08/13)


 「大企業じゃなくてすみません」。都内私立大学の4年生が内定の報告に来てくれて、そう前置きして話し始めた。「第1志望の大手の会社はダメでしたが、中小企業ながら2社内定していてその選定で迷っています」ということだった。私は講義などで必ず「良い内定というのは大企業ばかりではありませんよ」と言ってはいるのだが、誰しも大企業に入りたいという気持ちが先に立つのか。

 彼は第1志望の企業は残念な結果となったが、内定先の2社は第1志望のエンタメ業界内であり、かなり健闘したと言っていい。その2社の比較で彼が迷っていたのは、A社は創業から30年余りの比較的歴史のある会社なのに対し、B社は5年前にできたばかりのベンチャー企業ということだ。決算書を取り寄せて見ており、前年の業績は似たり寄ったりである。

 30年の実績というのは、バブル後のリーマン・ショックを生き延びて、今回の新型コロナウイルス禍も乗り越えているということ。かじ取りのうまい、不況に強い会社といえる。その点はB社よりもはるかに安定性を感じる。

 しかし彼にとっては大きな懸念があるという。それは最終面接で話した高齢社長の考え方である。A社はブラックなにおいがプンプンするというのだ。最終面接で高齢社長から「モノづくりの会社だから、残業は多くなる。それでもいいのか」と面と向かって言われたそうだ。その場では「はい、大丈夫です」と言うしかなかったが、そんなことを言われては腰が引けるというものだ。

 いくらモノづくりの会社とはいえ、このご時世に残業覚悟で来いと言われても、第2志望としている彼には大きなマイナスイメージになった。昔ながらのふんぞり返った居丈高な社長の雰囲気で、周囲はビクビクしている感じさえしたという。

 一方でB社はベンチャーながら雰囲気がよく、意欲作を世に送り出そうと一生懸命で、そこなら逆にもしも残業が多くても、一丸となって頑張れるかもしれないと感じたそうだ。

 彼の中で2社のうちどちらにするか既に答えは出ており、ベンチャーながら気持ちよく働けそうなB社に入ることを後押ししてほしいようだった。私もそれを支持した。

 なぜなら、もしもB社に入って経営状態が悪くなったとしても、1年以内に倒産するということはないだろうし、数年で同じ業界内で転職しても問題はない。それよりも1年間、その会社になじんで社会人のスタートが切れるということが大切だと考える。

 中小の会社では、最終面接で経営者が出てくるケースは多い。そうなると、判断基準の大きな部分を経営者の人となりが占めるのは当然だ。中小企業の場合、社長の発言に気を付けないと、新卒採用は難しくなる。
 
(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/


     

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