採用面接はただ候補者と話をすればよいというものではなく、特別な訓練が必要な専門技術である。例えば「候補者の能力、性格、価値観を推測できる具体的な事実を聞き出す」という単純な目標さえ、何も訓練をしていない人が行うことは難しい。
日頃、我々は具体的な情報が抜けまくった話をお互いにしている。「私は都心の大きいカフェでアルバイトをしています」と言っても「都心とはどこか」「どれくらい大きいのか」「どんなスタイルのカフェか」何もわからない。しかし、経験や知識、想像力を生かし、情報の穴を埋めながらコミュニケーションを成立させている。通常の会話はこれでよいだろう。
しかし、採用面接ではこれは絶対にしてはならない。相手が言ってもいないことを想像で勝手に埋めて評価することになってしまうからだ。自分が埋めた情報には、必ずアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が潜んでしまう。このことによって、採用面接における評価がゆがんでしまう。事実とは異なることを根拠に相手を評価すれば、当然間違った結果となる。
こうなることを封じるために、各企業は「自分勝手な想像ではなく、相手から聞き出した事実によって評価をする」のを目的に面接担当者へトレーニングを施している。ところが多くの場合、それは管理職になって初めて採用面接をすることになった人など面接初心者向けである。
しかし、社長や経営幹部など、面接を長年行ってきた人にも訓練は必要ではないだろうか。むしろベテランの方が経験や知識が豊富だからこそ、足りない情報から物事を推測し理解する能力が高いため、「その能力を使わなくする」訓練が必要なのだ。
ところが、採用面接の研修などでは、このような経営幹部は対象から外れていることも多い。理由の一つは「自分たちは大勢の人を見てきたから、人を見る目には自信がある。だから訓練など受けなくともよい」という経営幹部たちの過信だ。
確かに多くの人と接することは評価力を高めるだろうが、一緒に働いており情報がたくさんある人を評価することと、短時間で行う採用面接での評価は別物だ。また、時代や環境の変化により、その企業や仕事にフィットする人は変わっていくが、過去の人物データベースから評価しようとすれば、ニュータイプのハイパフォーマーを発掘することはできない。
こうして、いまだに多くの企業で「挫折経験がある人を採用しろ」などのバイアスの強い号令がかかる。もちろん今でも当てはまる業界もあるが、近年ではすくすく育ってきた自己効力感が強い人が好業績を上げるケースも多い。過信した経営幹部にバイアスを除くための研修を受けさせるのはなかなか難しいが、人事担当者は勇気を持って要望しなくてはならない。
(人材研究所代表)