2025年卒の大卒・院修了予定者に対する求人倍率は、リクルートワークス研究所による調査では1.75倍と学生への追い風はやまない。企業にとって人材獲得はますます厳しくなっており、多様な働き方の入り口を用意することが、企業が選ばれる要因になりつつある。入社後の配属先をあらかじめ提示する「初任配属確約採用」を行う企業が増えているのも、昨今の変化の一つだろう。
25年卒が対象の「働きたい組織の特徴」に関する弊社の調査では、「経営スタイル」「成長スタイル」「ワークスタイル」などの観点に分類し、どのような組織でより働きたいかを聞いている。
「様々な仕事を、短期間で次々に経験する」働き方がよいのか、「特定領域の仕事を長期間、継続的に担当する」働き方がよいかを聞いたところ、前者は45.8%、後者は54.2%という結果になった。
ジョブローテーションで多様な仕事を経験するよりも、一つの仕事に特化して取り組みたい。そんな意向がより多く表れており、ジョブローテーションを前提としたメンバーシップ型採用(総合職採用)だけでは、半数以上の学生の希望に沿えないことになる。とはいえ、総合職型の希望も4割台半ばと比較的高く、それぞれの思いに寄り添える制度や採用のあり方が求められているといえる。
不確実性の高い低成長時代ゆえ、学生の多くが自身の力を鍛え生き抜けるようにと考えるのは自然な流れだろう。そこで「どこの会社に行ってもある程度通用するような汎用的な能力が身につく」か「その会社に属していてこそ役に立つ、企業独自の特殊な能力が身につく」か、どちらが自分の考えと近いかを聞いたところ、前者が77%、後者が23%と大きく差が開いた。
これまでの企業と個人の関係性は、企業側が年功賃金や終身雇用により個人の生活を保障する代わりに、個人は一つの企業に忠誠を尽くすという在り方が一般的だった。個人のキャリアを左右する人事の主導権は企業にあったのだ。
しかし今は、一つの企業に入社したからといって生涯安泰でいられる保証はない。自分が成長し、どこでも通用する力をつけることこそが安定・安心・安全を担保するという考え方が広がっており、就活生は企業にキャリア自律や成長へのサポートを期待している。企業を選択する際も、個々のキャリアに寄り添う柔軟で多様な制度などがあるかといったことを見極めようとしている。
学生が育ってきた時代背景や社会環境の変化を理解し、採用の入り口や入社後の職場環境において、一人ひとりのキャリア開発を支援する機会を作っていく。企業側のそんな努力や工夫が、採用難が続くこれからの時代に「選ばれる企業」となる一因になるだろう。
(リクルート就職みらい研究所所長)