知っておきたい就活情報

【就活のリアル転載】就活うつ防ぐには 初期から中小企業に目を 曽和利光(2024/10/1付 日本経済新聞 夕刊)(2024/10/08)


 「就職活動時のメンタル不調に関する調査」(ABABA総研2023年)によると、就活生の約半数が「うつっぽい」と思ったことがあり、約3割が「死にたい」と思うほど追い込まれたという結果だった。これらが実際の医学上のうつ病であるとは限らないが、驚くべき数字だ。

 就職は人生の重要な節目で、もちろんストレスのかかる時期だが、つらいばかりでなく未来の夢や希望を持つこともできるはずだ。就職氷河期と違い、売り手市場であり1人2~3社の内定も得ている。それなのになぜこれほどの就活生が「うつ」的な状態になってしまうのか。

 一番の理由が「選考に落ちた・落ちたことが続いた」(65%)だ。売り手市場なのに「落ち続ける」のは、大手企業や人気業界ばかり受けているからではないか。大手や人気業界は景気や少子化の影響はほとんど受けず、数十年にわたり常に買い手市場で、今でも希望者3~4人に1人しか入れない状態だ。

 また公表データはないが筆者の知る限りでは、大手企業や人気業界は倍率が100倍を超える会社も珍しくない。つまり応募者の99%は不合格であり、大手ばかり受けては何十社も落ちることだってある。そうなれば、確かに自分を否定されたように感じ、「就活うつ」状態になってしまうのだろう。

 実は対策は簡単だ。企業の9割以上を占める中小企業やベンチャーにも就職活動の初期から目を向ければよい。中小企業の求人倍率は数倍で合格しやすい。これで少なくとも「落ち続ける」ことはなくなる。

 また、探せば中小でも知名度も報酬水準も高いところはいくらもある。多くの就活生は大企業の採用が終わってから中小企業に目を向けるため、その頃には優良中小企業の採用は既に終わっているというだけだ。

 しかし、なかなか実行できない理由もわかる。多くの就活生は大企業の難易度を知らない。就活は受験と違い偏差値も倍率の公開もない。東大の入試倍率でも3~4倍程度なのに、大手企業は100倍とは思わないだろう。企業は自社の難易度を知らせるためにデータを公開し、求める人物像の解像度を高めてほしい。そうすればフィットしない人が受けなくても済む。

 また、大学キャリアセンターや紹介会社のアドバイザーは、就活生の自己分析対象を「やりたいこと(志向や価値観)」から「できること(能力や性格)」に重点を移してほしい。企業は「やりたい人」より「できそうな人」を採るからだ。学生は受かりやすい、すなわち自らにフィットした企業をもっと受けるようになるだろう。

 この売り手市場における「就活うつ」は、企業や大学、人材会社のマッチング力が低いから起こっているのだ。就活生が自分を知らずに、合わないところを受け続けるのは非難できない。彼らの受け入れ側や仲介者こそ努力すべきではないだろうか。

(人材研究所代表)


     

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