先般、米アマゾン・ドット・コムが全世界の社員に対し、週3日としていた出社を2025年から原則週5日に戻すと表明した。最高経営責任者(CEO)のアンディ・ジャシー氏は、対面の方が社員の連携や創造性が効果的になり、人間関係も深まると、出社のメリットを挙げた。他にもテスラやゴールドマン・サックスなども出社回帰の方針を打ち出している。
日本企業でも、ホンダは22年に基本的に出社への転換を決めた。楽天グループやGMOインターネットグループなども出社にシフトしている。
一方、学情が7月に発表した調査では、リモート勤務制度で7割以上の就活生の志望度が上がるとの結果が出ている。学生と企業の間ではリモートワークに対する考えにギャップがある。求人倍率1.1倍、失業率4.3%(7月)の米国と違い、人手不足で採用難の日本では簡単にフル出社に回帰しにくい。リモート可という条件は採用に有利に働くからだ。
就活生にとって働き方の自由度の高いリモートワークができる会社が魅力的に見えるのは理解できる。しかし、快適に働けることだけが仕事を選ぶ基準のすべてではない。初めて社会で働き始める人にとって、本当はどちらが良いのだろうか。
そもそも就活生はリモートワークを望むと言いながら、一方で各種調査を見ると、仕事を選ぶ基準としては安定や社会への貢献度に並び、自分が成長できるかどうかを重要視している。
成長とはすなわち能力開発だが、どんな能力も身につけるには必要条件がある。例えば、組織行動学者のデービッド・コルブ氏の経験学習理論では、単に仕事経験だけでなく、それを振り返り、意味付けし、教訓化することが必要とされる。しかし、上司や先輩に横で伴走してもらいサポートを得なければ、新人が独力で行うことは難しい。
また、昔から「仕事は見て盗め」という言葉があるように、何かができる人でも自分がなぜできるのかを全て言語化することは難しく、やっているのを実際に観察してもらい、持てる暗黙知を盗んでもらうしか、知識伝達の方法がないことも多い。
「どんな人になりたいのか」はすなわち「どんな能力を身につけたいのか」に等しく、よってリモートでも能力開発できることはある。知識など言語で伝わるものは問題ないだろう。しかし、ビジネスで必要な非認知能力(考え方、姿勢、行動特性など)は言語化しにくく、リモート環境で学ぶことは現時点では難易度は高い。
就活生は一時の快適さだけを考えて仕事場を選ぶのではなく、20代という能力開発の黄金期において、一体どんな能力を身につけておきたいのかをきちんと考えて、リモートワークか出社かを選ばなければ、いずれ後悔することになるだろう。能力さえつけておけば、リモートワークなどいつでもできるのだから。
(人材研究所代表)