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【就活のリアル転載】「多様な人欲しい」は本当か 目に付く矛盾した選考法 曽和利光(2024/11/12付 日本経済新聞 夕刊)(2024/11/19)


 「我が社は多様な人材を求めています」と訴えている会社は多い。世の中もダイバーシティー(多様性)ばやりである。人の個性は多様だから、社会においては一部の人だけでなく、多様な人々が平等に活躍できる機会があることは大変重要だ。

 しかし、それは「一つの会社」で実現されなくとも「どこかの会社」でよい。ところが冒頭のように多くの会社が「多様性」を打ち出している。それは本当だろうか。というのも、多様性とは逆行することを実際はしているところが多いからだ。

 たとえば、最近、人事や採用に適性検査などのデータ分析や人工知能(AI)による選考を導入するところが増えている。しかし、現在の会社で活躍している人のデータと「似た人」ばかりを採用しようとするなど、やり方によってはむしろ一様性をもたらすことになる。

 また、会社にはそれぞれ組織文化があり、そこに適しているかどうかを「カルチャーフィット」と呼び、採用時に重視しているところも多い。文化とは基本的には「価値観の一様性」のことを指す(もちろん米国のような「多様な文化」もあるが)。文化適合性で人を選ぶことも一様性につながる。

 水面下で導入が増えている社員の紹介によるリファラル採用は、「類は友を呼ぶ」の言葉通り、「今いる社員のような人を集めたい」と思った時に取る採用手法だ。心理学では「類似性効果」と言って、人は自分と似た人に対して好感を持つこともわかっており、多様性にはつながりにくい。

 会社側から学生にアプローチする「スカウト型採用」にしても「会いたい人にだけ会う」ということだから、やり方によっては同様の結果となる。このサービス提供会社に聞くと、やはり「著名な大学の学生が欲しい」と、企業のスカウトメールは一部の学生に殺到。一方で認知度・想起度が低い学校の学生にはあまり送られておらず、学校間格差が広がっている。

 これらのどこが「多様性」なのか。手法を批判しているのではない。「実際は多様性を追求していない」のなら「多様な人材が欲しい」などと言わなければよいのではと思うだけだ。

 そもそも「多様性」の受け入れは、公器である企業が社会的責任として求められているものだ。「多様性のメリットは創造性」とも言うが、行動科学の研究結果は一様でない。違いが何かを生む場合もあれば、違いを分かり合うために大きなコストがかかる場合もある。理想として掲げるのはよいが、実現できていないことを声高に主張すると誤解を招く。

 むしろ、企業は就活生に対して「当社はこういう人に対しては許容力がない」「うちには合わない」と訴えることが本当は親切な対応ではないか。就活で最もやってはいけないのは、不合格になることより、間違って自分に合わない会社に入ることだから。

(人材研究所代表)



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