「会社に入ると住宅手当はどのくらいもらえるものなんですか?」。私が講義している大学の女子学生が聞いてきた。
彼女は大学の寮に入っているという。光熱費を含めた寮費を親が出してくれている。大学の寮といっても昔とは違い、個室で新しく整った住環境である。今と同レベルの生活を維持したいが、卒業したら親の支援は受けられないし、奨学金の返済もあるので、大丈夫だろうかと不安になったらしい。
私はキャリアに関する講義の中で、どのくらいの給与がもらえれば暮らしていけるかというシミュレーションをさせる。生活するのにいくらかかり、そのためにいくらの給与が必要で、税金、社会保険料などがどのくらい差し引かれて「手取り」となるのか、について考えてもらう。具体的に「生活するにはいくら必要か」という視点で考えて就活に向かうよう動機づけをするためだ。
総務省の2023年家計調査では、単身世帯の1カ月平均の消費支出は16万7620円である。食費が4万6391円、水道光熱費1万3045円、被服費4712円などだ。
この中では住居費が2万3815円とかなり低くなっており、賃貸物件の全国平均とは異なっている。一人暮らしの平均家賃は約5万円で、東京都では8万円にもなる。そこで最低で約5万円として調整すると、ひと月に必要な金額の合計は19万3805円となる。東京都に限定するなら22万3805円だ。
23年の新入社員の平均賃金(大学卒)は23万7300円。給与はこのように、ひと月暮らせる金額を目安に設計されているのだ。といっても手取り額を考えると、税金や社会保険料が差し引かれ、約19万円といったところである。これでは赤字だ。
そこでプラスされるのが住宅手当や交通費の支給などの福利厚生だ。住宅手当は平均で1万から2万円。会社によってまちまちだが、借り上げ社宅ではすべて会社持ち、寮ならば食事まで出るところもある。企業はこうした福利厚生の充実で人材獲得競争に勝とうとしている。
学生は日ごろ「103万円の壁」以内でアルバイトしていることを考えると、急に3倍くらいの年収になる。しかもこれに加えて、業績に応じて賞与(ボーナス)や、有給休暇もあるという好待遇が待っている。
年間3カ月分の賞与がプラスされれば、いきなり年収は350万円超となる。あるIT(情報技術)企業の新入社員は年収が約400万円だったと聞く。時給換算で約1800~2000円にもなる高時給の仕事、それが今の新入社員だ。
会社を初任給と福利厚生だけで選ぶわけではないが、そこにも目を配り、自分一人で食べていくという発想を持って就活に臨んでほしい。奨学金という学生ローンを背負っている人はなおさらだ。
(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/