タイパ(タイムパフォーマンス)という若者言葉があるが、就活もその対象になっている。リクルート就職みらい研究所がまとめた「就職白書2024」によると、就活生はスーツを着てお金を払って電車に乗り、数時間椅子に座って聞く対面での会社説明会などにはもはや5社ほどしか参加しない。オンラインでも12社ほどでしかなく、「早送り」できない人の話を聞くのはもうつらいことなのだ。
一方、今でも年間で100回を超えるほど「ライブ」の会社説明会を開いているような会社も多い。会社側はライブの方が自社のことを学生に強く印象づけられると思っているからだ。しかし、ライブの手触り感に価値を感じる就活生もいるだろうが、アイドルでもアーティストでもない知らない社会人のライブに、多くの就活生は価値を見いだしていない。
このあたりがわかってきた会社側は、事前に録画した動画の会社説明会を、採用ホームページやユーチューブなどにアップして、それをただ好きな時に「2倍速」で視聴できるようにしている。実際、そういう会社のデータを見せてもらうと、最も視聴者数が多いのは大概深夜で、おそらく学生はベッドやソファで寝転びながら、スマホで2倍速で見ているのだろう。
私はまったくこれでよいと思う。私も昔、採用担当者として年間100回くらいは説明会をしていた。話す練習にはなったが、今思えばかなり無駄だった。その労力をもっと学生の動機付けや戦略の立案などに使えたかもしれない。また、アナウンサーでもない「話すことの素人」である採用担当者のライブより、練ったトークをきちんと台本を踏まえて話し、丁寧に編集した動画の方が就活生の情報収集という観点でも効果的だ。
似たようなことは面接でも起こっている。これまで大企業は何千人という応募者のため、数百人単位で社員を動員し初期面接をライブで行ってきた。これは極めて大変なオペレーションだ。ところが近年、事前に定めた質問に対する回答の動画を送ってもらうことで、初期面接とする会社が増えている。そして、当然ながら、面接担当者は2倍速でそれを見て評価しているところがあるのを知っている。場合によっては人工知能(AI)に任せている企業もある。
2倍速の就活や採用に眉をひそめる人もいるだろう。真剣な場で2倍速とは不謹慎な、と。確かに無限に時間があれば2倍速などせずに、じっくりお互い吟味したいものだとは思う。
しかし、2倍速だから2倍の数の会社を受けることができ、2倍の候補者を面接できる。さらに捻出した時間によって、絞り込まれた候補者と会社が、今度はゆっくりと時間をかけて擦り合わせる余地が生まれる。実はお互いに良い時間の使い方をし始めたのではないか。
2倍速でいいのかもしれない。
(人材研究所代表)