好きな人と結婚するのと、好かれて結婚するのはどちらが幸せだろう。売り手市場を背景に、企業の採用手法はスカウト型、つまり企業側から学生にスカウトメールなどでアプローチをする方法が一般的になってきた。企業は能力や性格が自社に合っていると思う人をスカウトするので、その後の合格率は当然高い。学生は自分で応募するより楽に内定をもらえる。
しかし、企業が必要と考えている資質を自分が持っていたとしても、それを学生が「売り」にして生きていきたいかどうかは別だ。
身体能力が高い人を見て、企業が「この人は体力があるから長時間労働も乗り越えてくれるだろう」と考えてスカウトしたとしても、本人が体力や根性勝負で働きたいと思っているかはわからない。相手に「あなたがお金持ちだから」結婚したいと言われて、うれしい人はどれだけいるだろう。
本来、人には強みや弱みなどない。あるのは特徴だけだ。それがどんな仕事や会社になるかで、強みや弱みに変わる。好奇心旺盛か飽き性か、おとなしいか落ち着いているかは場合による。自分が好きな特徴を相手が強みと思うかはわからない。逆に、嫌いな特徴を強みと思われてしまうこともある。
また、就活生はまだまだ成長途上だ。今は足りない面であっても、それを仕事で成長することで補えることもあるだろう。しかしスカウトを待つだけの就活をすれば、相手が強みと思うところばかり注目されて、今の自分には欠けていても伸ばしていきたい部分はスルーされる。中高年ならいざ知らず、新卒時点で自分の能力の可能性を限定されるのはもったいない。
いくら楽だからといって、企業からのアプローチに応えるだけの受け身の就活をするだけでは、幸せな就職とならないかもしれない。どれだけふられるかわからなくても、勇気を振り絞って企業側に自分からアプローチしなければ、自分の意思通りにチャンスをコントロールすることはできない。
もちろん、自分には「これでなければならない」と思えるほどやりたいことはなく、どんなことでも自分の力で何か貢献できればうれしいというのなら話は別だ。そういう人は、今の自分を最も欲しがってくれる会社に入る方が幸せかもしれない。実際、私はそれで最初の会社に入った。特に人事をやりたいわけではなかったが、成果を出せて貢献できたことで、今では人事の仕事が天職だと思うようになった。そういう人は多い。
就活では、単に楽であるかや効率性だけではなく、自分はやりたいことや売りにしたいことへのこだわりが強いのか、それとも誰かに役に立つことが幸せなのかを吟味しよう。そのうえで、寄ってくる会社に応じるのか、自分で会社を探し求めていくのかを決めるのがよいのではないか。
(人材研究所代表)