就職活動中の学生からよく聞かれることに「やりたいことが明確じゃないとダメですか」というものがある。2025年大卒予定者を対象に「就職活動で困っていること・悩んでいること」を聞いたリクルート就職みらい研究所の調査では、会社説明会などが本格化する直前の2月の時点でも「なりたいものが見つからない」「自分は何がしたいのかわからない」という声が複数あった。
しかしそもそも、就活を始める前に「やりたいこと」を明確に持っている学生のほうが少ないのではないのだろうか。自分に合った業界や企業、仕事内容とは何か。自己理解を深めながら納得のいく選択肢にたどり着くプロセスが就活ともいえる。もちろん中にはやりたい仕事や求める働き方を、就活を始める前に明確にイメージしている学生もいるが、それがないからといって焦る必要はない。
ではなぜ、多くの学生は「やりたいことが明確にない」ことに不安を感じてしまうのか。背景の一つに、あまりにも企業側が「やりたいことが明確になっていることが当たり前」という前提で、安易に「何がやりたいか」と問うてしまっていることがあるのではないだろうか。
例えばインターンシップの選考の段階で、志望理由や入社後に実現したいことを聞かれても、それに答えるのは難しい。インターンシップは業界や企業についての理解を深めるために参加することが多く、エントリーの時点で考えが定まっていないのは自然なことかもしれない。
「やりたいこと」という言葉から、具体的な仕事内容を考える学生も多いが、例えば、会社を選ぶ際の軸には「私にとっては何をやるかよりも誰とやるかが大事」という考えもあるだろう。あるいは「趣味の活動を重視してくれる会社がいい」など、ワークライフバランスの観点から進路決定をする人もいるのではないのだろうか。
就活は、これからどんな人生を歩んでいきたいのか、自己理解を深める貴重な機会だ。職業について理解を深めるとともに、自分の得意なことや熱中できることを明確にしていく。
「こんな環境なら自分の強みを発揮できそうかも」という仮の軸が見えてきたら、企業との接点を持ち、どこに違和感や共感を抱くのかを整理していこう。仮置きした軸を軌道修正していくことで、自分らしい「選社軸」が定まっていくだろう。
一方、企業は学生の自己理解が深まっていない段階で、学生が「やりたいこと」が明確でないといけないように感じてしまう質問ばかりをするのではなく、一人ひとりの「興味・関心」や「得意なこと」を引き出して、理想の姿を一緒に考えていってはどうだろう。学生が「実現可能な自分の姿」を見いだしていけるようなサポートを企業にはお願いしたい。昨今、就職活動の早期化に戸惑う学生は少なくない。「インターンシップが終わったと思ったら選考案内が届いた」「自己分析や企業研究ができていないうちに選考が始まってしまう」といった声は、行き過ぎた早期化への警鐘ともいえるのではないか。
そもそも早期化とは、政府が推奨する就活スケジュール(大学卒業前年の3月に会社説明会やエントリー開始、6月に選考開始)よりも早く選考が始まることを指す。では実際にどの程度早期化が進んでいるのか。
リクルート就職みらい研究所がまとめた「就職白書2024」のデータは、2024年卒の面接開始時期が全体的に早まったことを示している。特に従業員規模5000人以上の大手企業では、卒業前年の1月以前に選考を開始するケースが増加傾向だ。3月が依然として選考開始時期のピークであるものの、5~6月に選考を開始する企業は減少している。
このような流れを、学生はどう捉えているのか。大学のキャリアセンターに寄せられた学生からの相談内容や困りごとには「準備が十分でない状態でも早期選考を受けるべきか」といった迷いや、「早期に複数の内定をもらえたが、どう進路を決定すればいいのかわからない」といった声が多いと聞く。将来をじっくり考えられない焦燥感が広がっているのだろう。
労働人口が減り続ける中、企業の採用意欲は今後も高まっていくと予測できる。学生への追い風はますます強まり、自己内省を深めなくとも内定がもらえてしまう状況が続いていくことが考えられる。それにより、自分に適した職場やキャリアパスを見極められないまま入社し、ミスマッチや早期離職につながるリスクは高まっていく。
これからの社会において、若い人材への期待は格段に高まっていくだろう。ただし、その期待により就職活動が早期化し、企業と学生のミスマッチが拡大してしまうことは、結果的には社会全体の大きな損失になってしまうのだ。
企業は、採用活動を短期的な人材確保の手段と捉えるのではなく、学生のキャリア形成を支援する機会と考えていってほしい。「キャリア開発支援者」の立場で、学生一人ひとりと対話を重ねることが、社会全体でいきいきと活躍する人材を増やすことにつながる。
学生もまた、内定獲得をゴールと捉えることなく、自分らしく生きるためのファーストキャリアとして選んでいってほしい。ライフキャリアという長期的な視点を持ちながら、視野を広げ、焦らず自分に合った職場や働き方を探索することが、入社後の充実感や満足感につながるはずだ。労働力不足が深刻な今こそ、社会全体で就職活動のあり方を見直すべきときが来ているのではないだろうか。
(リクルート就職みらい研究所所長)