2025年大卒者の新社会人生活が間もなく始まる。入社後の配属先や勤務地がどこになるのかや、「配属ガチャ」への不安を抱えている学生もいるかもしれない。
昨今は、そうした不確実性への不安をより小さくしようと、採用の段階で初任配属先を確約する企業も増えている。学生が複数の内定企業から最終進路を決める際に「配属先を確約してくれるところ」を優先的に選ぶケースが少なくないからだ。
一部では、社会人としての経験はほぼない中で、初任配属先を学生の希望通りに決めるというのはいかがなものかという声も聞かれる。しかし、総合職採用一辺倒だった採用のあり方に、初任配属先確約という選択肢が増えることは、ファーストキャリアをどうスタートするのが最適か、個人が将来のキャリアを自分で考え、自分で決める機会ともなっている。
このことは、個人が「自分のキャリアは自分が考えて決めていく」という主体性を育むことにつながる。これまで強力な人事権を有してきた企業がそれを手放し、個人の思いや意向に耳を傾けることで、企業と個人の関係性はよりフラットなものになっていく。社会環境が目まぐるしく変化する今の時代。主体的に動ける個人が増えることは、結果として事業成長にとって欠かせない要素になっていくはずだ。
企業と個人の関係性の変化の背景には、企業による「従業員を大切にする方法」の変化がある。かつて企業は「雇用を守る」ことを通じて従業員を大切にしてきたが、そのためにときに強い人事権を発動し、個人の意に反した異動もあっただろう。
公平・平等を重視して、標準化されたルールで管理・処遇することが年功序列・終身雇用を支えてきた。それが、人生に安心・安全・安定をもたらすという価値観が一般的だったのだ。
一方、今は「従業員一人ひとりの思いを尊重」し、「強みを生かして成長していける環境を整備すること」こそが、従業員を大切にすることになりつつある。重視すべきは従業員の主体性と、公正であること。一人ひとりのポテンシャルを最大限伸ばすために、多様な働き方の価値観を受け入れていくことが求められているのだ。
自分の働き方・生き方は自分で選べるのだと、個人がキャリアオーナーシップを持つことで、その機会をくれた組織へのエンゲージメントや自ら選んだ仕事へのモチベーションが高まり、生産性の向上にもつながっていく。結果として、中長期的な事業成長をもたらす変化となる。
社会全体で人材が不足する状況は今後も続いていく。そこで選ばれる企業になるためには、人事制度の整備を含め、個が生きる環境や選択肢をどこまで準備できるかがカギとなるだろう。
(リクルート就職みらい研究所所長)