就職活動では内定獲得が短期的なゴールの1つではあるが、人手不足で学生に追い風が吹いている昨今では、企業の採用広報解禁となる3月より前の段階で内定が出るケースもある。自己分析や企業研究を深める前に内定が決まり「ゴールを達成」したとばかりに就活をやめてしまう。その結果、入社後に「思っていた仕事・職場と違う」と気づくといったミスマッチが生じやすくなっている。
ここ数年の就活の変化の一つに、生成AI(人工知能)の活用がある。リクルート就職みらい研究所の調査では、2024年の大卒者では14.5%だった就活での生成AIの利用率は、25年卒だと34.5%と2倍以上に急伸。2月1日時点の26年卒業予定者では、56%の学生が生成AIを活用したことがあると回答している。
現代社会において、生成AIの活用はもはや不可逆だ。学業や課外活動で多忙な学生が効率的に就活を進める上で、AIの力を借りることは一つの有効な方法になっていくだろう。
重要なのは、自己内省を深めるプロセスでAIをうまく使うということだ。生成AIを利用した25年卒の学生のうち、74.8%が「生成AIから得た回答を吟味して修正した上でエントリーシート等に使用した」と答えている。
自分自身の経験やそこから得た考え方、価値観をもとに文章を作成し、ブラッシュアップする中で自己内省を深めていく。そんな付き合い方ができれば、複数のエントリーシートの作成に何時間も割かれて疲弊してしまうといった事態も減っていくだろう。
また、26年卒予定の学生の中には「作成したエントリーシートの内容をもとに、AIに面接の質問を考えてもらい、受け答えの練習をした」という人もいた。その分、自分自身や企業について考える時間を持てるようになり、歓迎すべき変化だといえる。
一方で、25年卒の生成AI利用者のうち「生成AIから得た回答をそのままエントリーシート等に使用した」学生や、「生成AIを使用して、エントリーシート等の内容を本来の自分以上に良く見せてもよいと思う」学生も一定数いた。
生成AIは効率的な内定獲得のために、いかようにも使える。しかし、背伸びした自分を期待されて入社しても、自分らしさを発揮できない環境は、いずれ自らを苦しめてしまうのではないだろうか。
就活は「自分はどう生きたいのか」をじっくり考える貴重な機会だ。生成AIがある時代だからこそ上手に付き合い、自分らしくいられる職場環境、仕事内容に出会うために、自分に向き合う時間をとってほしい。それが、長い社会人生活を納得感を持ってスタートするための一歩になるはずだ。
(インディードリクルートパートナーズリサーチセンター上席主任研究員)