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【就活考転載】AIは新卒の職を奪うか 採用続け初級職再設計を 曽和利光(2025/11/17付 日本経済新聞 夕刊)(2025/11/25)


 近年、日本では構造的な人手不足で新卒採用は売り手市場となっている。しかし、生成AI(人工知能)の急激な進歩により、この状況が今後も続くかは分からない。というのも、AI先進国である米国では若手の失業率が高まっているからだ。

 ニューヨーク連銀によると、2025年1~3月の22~27歳の大卒失業率は5.8%と4年ぶりの高水準となり、全米平均を大きく上回った。これはAIの影響だと指摘する声が多い。メタのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)も来年にかけて「コーディング業務の多くをAIが代行する」ようになるとの趣旨の発言をしている。他にも企業各社は続々と新卒採用予定数を削減している。

 このように、AIは新卒の仕事を徐々に代替していくのではないかと思われる。初級職の多くは、教科書で明文化できる手順やチェック作業といった「形式知」に寄ったものが多い。生成AIはそこを速く、安く、一定の品質で実行できる。

 同様なことが日本でも起きないとも限らない。日本は足元の失業率が2%台半ばで安定しており、統計上は「穏やか」に見える。しかし、新卒求人倍率は緩やかな低下傾向で、入り口は徐々に狭まってきている。

 このように、短期的な効率やコストだけを考えれば、新卒を減らしてAIに代えていくのは必至とも思える。しかし、そこには大きな落とし穴がある。

 初級職を削減し過ぎると、その企業の将来は危うい。というのも、高レベル業務のスキルを身につけるには、単純な仕事から順に経験を積むことが必要だからだ。上級職は初級職経験者からしか生まれない。初級職は現場でしかつかめない「暗黙知」(勘所、段取り、関係調整など)を育てる場である。「形式知」の処理だけをAIに渡し、「暗黙知」の習得機会をなくせば若手は成長せず、ベテランは生まれない。

 それなら中途採用で即戦力を得ればよいかというと、もし多くの企業がそう考えれば、中途採用市場は激烈な競争となる。実際、現時点の日本でも中途採用の方が新卒採用よりも求人倍率が高い。おそらく今後も、社内で昇進させる方が外部から採用するより効率的かつ低コストとなるだろう。

 企業はAI導入で人件費削減を進めながらも、長期的成長や人材確保を見据えるならばこれからも新卒採用を継続するべきだ。新卒は人件費の中では比較的安価なので人的生産性を高めるのも早い。また、AIの活用で若手を今よりも短期間で戦力化することさえできるだろう。

 単純に新卒採用を減らすのではなく、対人関係への理解や感情マネジメント、動機づけ、柔軟な対応といった高度な人間関係スキルなど、人間特有の能力が必要な業務への初級職の再設計を行う。そして、新卒を採り続けるのが賢明ではなかろうか。

(人材研究所代表)


     

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