知っておきたい就活情報

【就活考転載】地元で就職 勤務地選択は大きな決断  上田晶美(2025/12/1日本経済新聞 夕刊)(2025/12/09)


 「私は県内の企業に就職することを希望して、就活の軸としました。それは地元に彼女がいて、結婚を約束しているからです」。なんとさわやかな宣言か。会場のあちこちから、「ほおー」とか「ヘえー」という感嘆の声が漏れ聞こえた。中国地方のとある都市で開かれた就職に関するセミナーでのひとコマである。

 私は就活のノウハウに関する講演をし、その次に就職が決まった4年生の体験談が続いた。その中で地元企業に内定している男子学生が「なぜ地元就職を選んだのか」という質問に答えたのだった。

 志望動機をどこかで聞いたような、いかにもとってつけたような言葉で飾るのではなく、自分の覚悟を大勢の観衆の前で言い切った22歳。地元就職の理由を包み隠さずに言った勇気に心の中で拍手喝采だった。

 親やそして結婚を予定している相手もいるこの地で社会人生活をスタートさせ、生きていこうと決め、その中で自分に合った条件の会社を探した。彼が言うには「企業選びで迷って都会に出て行く人も多いけれども、本当にそれでいいのかなと疑問に感じる。後悔している先輩の話も聞いた」そうだ。

 地元の企業と都会の大手企業を比べると、大手企業は初任給も高く、キラキラして見えるかもしれない。しかし、先のことを10年、20年の単位で考えた時に、働く場所というのは大きな問題である。特に地方在住の人ならばなおさらだろう。

 大学選びには偏差値という「物差し」があり、4年間という期間限定だが、企業選びはさらに長期にわたる大きな決断だ。ともすると人生の分かれ道である。結婚やその先の人生など数多くの事柄を検討しなくてはならないものだ。

 冒頭の学生の決意を聞いて、「少し若すぎるんじゃないか。もっと若いうちはチャレンジしたら」という感想を持つ人もいるかもしれない。

 確かに、日本は晩婚化が進んでおり、平均初婚年齢は男性で30.9歳、女性で29.6歳と発表されている。それを考えると結婚宣言した彼はかなり早く決断したようにも思えるが、30歳台というのは平均値であり、中央値は男性が約28歳、女性は約27歳となり違ってくる。

 また最頻値というのもあり、もっとも多くの人が結婚する年齢は男性、女性ともおよそ27歳とさらに若くなる。晩婚化傾向は進んできてはいるが、生涯未婚の人を除き、若者の多くは20代で結婚しているといえる。

 結婚も就職もその選択はもちろん個人の自由であり、とやかく言うつもりはない。どんな選択も大きなチャレンジだ。自分の思い通りに生きてほしいと願う。勤務地の選択は一生の大きな決断になる場合があることを、大学講師として改めて肝に銘じた。
 
(ハナマルキャリア総合研究所代表)http://hanamaru-souken.com/



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