
採用対象となる母集団形成から内定辞退の予防まで、あらゆる採用活動プロセスにおいて企業の担当者の悩みは尽きない。いまや日本社会は、人口の急速な減少により、人材の需要に供給が追い付かない労働供給制約社会に突入している。持続可能な事業経営を実現していくためにも、自社にフィットする人材をいかに獲得し続けていくかは最重要テーマの一つだ。
企業や組織の交渉力が一定の強さを持っていた時代から転換期を迎え、労働市場における選択権は個人に移ってきている。個人の交渉力がより強くなっている今、多様な価値観を持つ個人から「選ばれる組織」にならなければ、事業継続自体が危うくなっていくだろう。
では、選ばれる組織をどう作っていくのか。給与など待遇面の見直しや、福利厚生の充実なども大事な観点だ。
ただ、個人が人生において何を大事にしたいか、その考え方は実に様々である。仕事だけではなく暮らしや趣味まで含め、一人ひとりが自分に合った働き方を選択できる仕組みがあるかどうか、その選択を支援する環境があるかどうかが、選ばれる企業になるためにますます重要になっていくのではないだろうか。
問われているのは、これから入社を検討する学生や求職者など外部から選ばれるだけでなく、今働いている従業員など内部からも魅力的な組織として選ばれ続けられるかだ。
以前取材した老舗専門商社を例に挙げると、そこでは「キャリアオーナーシップを育て、一人ひとりの成長を後押ししよう」と、2020年以降、様々な制度の導入を進めていた。希望者が募集部署に応募できるチャレンジ制度や、現部署に所属しながら希望する他部署の業務も兼務できる制度、自身のキャリアプランを人事に申告できる制度など独自の取り組みを導入したほか、「社員の選択をサポートする部署」として人事部内にHRサポート課を新設した。
もともとジョブローテーションで異動の機会はあったが、自ら異動を希望するという選択肢を用意し、従業員が常にキャリアに向き合う場や機会を作った。同じ人でも、意欲的に働きたい時期もあれば、生活上の都合で仕事をセーブしたい時期も出てくるかもしれない。人生の節目節目での変化に向き合い、応援できる仕組みを整えることで、安心して働き続けられる職場環境を提供しているのだという。
採用難時代はすでに到来している。個人に寄り添ったキャリア支援の取り組みが社内外の人材を引き付け、採用から入社後の定着・活躍につながるサイクルを生み出していく。そんな本質的な取り組みが、これからの企業にますます求められていきそうだ。
(インディードリクルートパートナーズリサーチセンター上席主任研究員)