知っておきたい就活情報

【就活考転載】「副業前提」の危うさ まず通用する能力獲得を 曽和利光(2025/12/15付 日本経済新聞 夕刊)(2025/12/23)


 最近、就活でも「副業がしやすい会社か」という点を重視する声が増えている。これは単なる収入増への関心だけではない。一つの会社や仕事に依存せず、収入源もアイデンティティーも複線化したいという、自己実現とリスクヘッジを兼ねた、時代の変化を反映した強い欲求の表れだろう。

 こうした流れを受け、企業側でも副業解禁の動きは加速している。ただ、現状は制度と現場に大きなギャップがある。

 情報漏洩のリスク、従業員の長時間労働や過重な負担による健康問題への懸念から、企業は慎重にならざるを得ない。「副業歓迎」を掲げながらも、実際には様子見という組織は少なくない。まだ多くの企業では、学生が期待するほどの高い自由度や、無条件の副業推進体制が整っているわけではない。

 この、複数の仕事を持つという「副業前提」のキャリア観は、予測不可能な現代では、複数の軸を持つ合理的かつ前向きな考え方で本来は歓迎すべき流れだ。にもかかわらず危うさを感じる。

 最初の会社を「とりあえず」「3年で辞める前提」と捉える「仮置き就職」的な発想が散見されるからだ。「二兎(にと)を追う者は一兎をも得ず」という言葉が浮かぶ。一度も本気で一つの道を極め、追い切った経験がないまま二兎目、三兎目に手を伸ばしても、それぞれの仕事が浅く終わるリスクは高い。

 肝心な「最初の一本の軸」を太くする前に、力点を分散させるのは危険だ。若いうちに一つのスキルを磨き抜く経験を怠ると、どの軸も中途半端になり、結局、どこでも通用しない人になりかねない。仮置き就職の発想で会社を選んでしまうと、仕事への向き合い方もどこか腰が引けてしまい、成長に必要なコミットメントができなくなる。

 では、「副業前提」世代は最初の会社をどう選ぶべきか。鍵は仕事を通じて、将来の市場で確実に通用する「売れる能力」を獲得できるかというシビアな視点を持つことだ。学生は会社の看板や給与水準といった要素だけでなく、仕事が他社や将来の独立した副業でも生かせる職能の土台になるのかを、冷静に見極めるべきだろう。

 例えば、営業であれば「新規顧客開拓の戦略立案と数字管理の実行力」、技術開発であれば「複雑な要求を整理する要件定義力と高度な実装力」といった、「どの市場でも価値があるスキル」(ポータブルスキル)に翻訳して、「何ができるようになるか」を深掘りする必要がある。

 最初の会社を「いつでも逃げられる場所」とみなすのか、「どこに行っても通用するための修業の場」とみなすのかで、キャリアの厚みは変わる。「副業前提」のキャリア時代だからこそ、自身の市場価値をつくるための最初のステップである「一社目」の意味は、軽くなるどころか、むしろ比重を増している。

(人材研究所代表)



前のページに戻る

入会のご案内
入会のご案内