前回紹介した情報リテラシーを学ぶことは、差別・人権分野以外にも多くの分野で積極的な影響を与える。間違った情報に踊らされて損失を被ることも、デマ情報によって政治選択を誤ることも防止できる。学生が誤った情報によって、研究方針や就活方針を間違えれば多くのマイナスを被る。差別・人権問題に取り組んでいる多くの人々も方向を間違えば、結果的に差別問題や人権問題の解決を遅らせることになる。そうした状況にならないためにも情報リテラシーの能力を高めることに大きな関心を抱いていただきたいと思う。「方針は現実から与えられる」といわれている。現実を正確に把握することなくして、正しい方針は立案できない。そして現実を正確に把握するためには情報リテラシーの能力が求められる。
私は職業人としての基本的能力は、「問題」と「情報」をキーワードに、問題発見能力、問題解決能力、情報収集能力、情報分析能力、情報発信能力であるといってきた。とりわけ問題発見能力や問題解決能力は、情報に関する上記3つの能力と密接に関わっている。情報収集能力や情報分析能力が不十分であれば、各分野の問題を発見することはできず、情報発信能力がなければ、多くの問題を解決することはできない。
特に情報分析と情報発信の能力は情報リテラシーの重要な部分である。多くの情報には多くの意図や偏見、主観などが絡みついている。それらがどのようなものであるかを見極めなければ、情報の本質は見えてこない。
そのためには先人の情報研究の活用をふまえた分析とともに、5W1Hの視点で基本的な情報内容を分析できなくてはならない。つまりどのような内容の情報を、誰が誰に対して、どのような時、場所、目的、方法で提供しようとしたのかという基本的な分析である。この基本的な視点だけでも多くのことが見えてくる。しかしそうした分析すらできていないケースが非常に多い。指摘すれば簡単に気付くことでも、指摘がなければまったく気付かず、簡単に情報操作されてしまっていることも少なくない。
5W1Hの視点で情報を批判的に読み取るだけでも多くのことが分かってくる。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、週刊誌、ネット情報、個人などの媒体によっても異なってくるが、「なぜこの表現なのか」と考えるだけでも情報に対する分析力は高まる。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)