前回紹介した多様なセンサーで得たデータを活用して人工知能が多くの分野の重要事項に関して判断しているのである。さらに爆発的なセンサーの増加によって、多くのビッグデータを吸収し、人工知能はますます進化している。人工知能は学習するデータが多いほどより賢明になる。まさにセンサーは人工知能を進化させる原動力といえる。これは生物の進化も同様であった。5億年前のカンブリヤ紀に生物が視覚を獲得したことによってデータ量が飛躍的に増加、生存競争が激化し生き残るために脳が進化した。
今日では五感に関わるセンサーの進化も急速である。それらは人間の五感を拡張させることにもつながっている。暗闇の状況でもモノが見えるイメージセンサーがなければ自動運転車は走行できない。聴覚や嗅覚センサーも進化している。特定の人の声だけを聞き分けるセンサーや極めて感度の高い嗅覚センサーができている。嗅覚センサーは警察犬のような役割を果たすこともできるようになるといわれている。それはガン患者を嗅覚で診断するセンサーにもつながっている。その他にも触覚センサーが人間のような肌をもつロボットの開発にも活用されている。それら以外にも多様な用途がある。味覚センサーも食品メーカーが使用するだけではなく、その他の用途にも使われることは間違いない。これらのセンサーからのビッグデータは人工知能をさらに進化させ、私たちも気付いていない製品開発にもつながっていく。
こうしたセンサーの形状も多種多様である。米国では一ミリ大の立方体をしたセンサーを抗精神病薬に埋め込み、確実に正しく服用したかを確認できるような錠剤を開発している。そのセンサーには微量のマグネシウムと銅が含まれており、胃液と反応して電流が発生し信号が発信されるしくみである。精神疾患の場合、確実に正しく服用しないと悪化することもあり、服用指導に活用することが考えられている。
今日では「プリンタブルエレクトロニクス」といわれている印刷技術によって、柔らかいモノの表面に有機物や導電体などの材料を使ったセンサー機能を印刷する試みも行われている。これらは触覚センサーを身につけた人工皮膚やシート型スキャナーなどの開発に活用されている。衣服にセンサー機能をつけて健康状態をモニタリングできるような製品も作られるだろう。私は大手アパレルメーカーに超高齢化社会になっている国内状況をふまえれば、上記のような健康管理や健康増進に貢献できる衣料品を企画・製造・販売すれば間違いなく売れると解説したことがあった。それが現実化しつつある。もちろんファッション性も重要なことはいうまでもないが、これも多様なビッグデータから進化した人工知能が、多くの人々が求めるファッションデザインが構想されるかもしれない。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)