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【社会に出る学生のための人権入門】(第22回)人権とは? これからの社会と人権Ⅷ(2019/06/13)


 これまで紹介してきた「クリスパー・キャス9」の「クリスパー」とはもともとDNAの塩基配列のことを指し、現在では最先端のゲノム編集ツールを指す専門用語になっている。クリスパー・キャス9は、DNAを編集できる化学成分を含む液体のことである。ほぼ100%に近い操作精度で遺伝子操作が可能になり、遺伝子発現の制御や編集ができる技術である。

 前回は遺伝子解析とガン治療について紹介してきたが、遺伝子解析や編集の進化は、遺伝子組み換え動植物の作製も可能にし、様々な遺伝子組み換え動植物が誕生している。食糧として極めて有用な肉付きのよい牛や豚、魚は、地球上の人口増加に対応できる食糧増産を可能にする。また極めて多くの実をつける植物や長期間腐らない野菜、受粉しなくても実を付けるトマトの栽培も可能になってきている。さらに厳しい環境下でも育つ動植物を作ることも実現している。これらが法規面・倫理面・人権面・環境面・経済面・労働面等に重大な影響を与え、食料の需給関係にも大きな変化をもたらす。

 これらの技術は人間をも改変してしまう可能性をもっている。生きたヒト受精卵の卵割初期の胚の中で、ヒトゲノムを正確に操作できる時代になってきており、デザイナーベビーの可能性が現実味を帯びている。知力・体力・運動能力・美貌等を強化する遺伝子操作にはかなりの抵抗感が存在するが、特定の疾患を治療するためなら良いのではないかという空気は多数派になる可能性が高い。オリンピックもドーピング検査だけではなく遺伝子検査が必要になるかもしれない。

 そうした遺伝子操作は、特定疾患だけの遺伝子操作に止まらず、親の「理想」とするデザイナーベビーを受け入れる基盤をつくることにつながる。すでにハーバード大学医学大学院の研究者は、各種病気にかかりにくい体質を作り出す「人類強化計画」を発表している。そうした取り組みは、より一層人類の長寿命化につながっていくことは間違いない。いずれ日本では4人に1人が100歳を超える時代になるといわれている。こうした長寿命化は年金制度だけではなく、政治にも大きな影響を与えていく。これらの動きが「吉」と出るか「凶」と出るかは私たちの今後の議論と行動にかかっている。

 21世紀は、日本はいうに及ばず世界的にも高齢化の世紀であり、都市人口集中化の世紀である。これらがゲノム革命の進化によって一層促進され、国の将来予測数値で最も正確といわれている人口の将来推計にも大きな影響を与えるかもしれない。まさに科学技術の進歩とともに人権問題はより一層高度で複雑で重大な問題になることは明白である。

北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)


     

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