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【社会に出る学生のための人権入門】(第25回)人権とは? これからの社会と人権Ⅺ(2019/09/12)


 前回の最後に脳科学の進歩を紹介したが、人間の脳は未だ自身の脳を十分に理解していない。
 しかしその解明のスピードは加速度的に早まっている。人間の感情や意識がどのように形成され、保存されているのかを明らかにすることができれば、人工知能はさらに高い次元に進化していくだろう。

 私たちの記憶が神経細胞(ニューロン)とその回路によって形成されていることが明らかになっているが、まだ一部にすぎない。
 この十年あまりの脳科学の進化は、あらゆる分野に多大な影響を与えてきた。脳の構造や働きを解明することに日米欧をはじめとする多くの国々は多額の財政を投入している。
 なぜなら最先端科学の進歩に根本的な影響を与えるからである。その意味で脳科学を制する国が産業や世界に圧倒的な影響を与えるといえる。
 人の身体を解明する科学であるゲノム(遺伝子)解析と脳科学は、社会のあらゆる分野に様々な影響を与えることは言うまでもない。また脳科学の進化によって、ゲノム革命やIT革命が進み、人工知能もさらなる進化を遂げていくことになるだろう。

 その脳の構造を具体的に紹介していこう。少し専門的になることをお許しいただきたい。脳には大脳皮質・大脳・小脳・脳幹・視床・視床下部・延髄などがあり、それぞれの役割や機能も徐々に明らかになってきている。
 大脳皮質の中の大脳新皮質は、認知・思考・判断など高度な知的活動を支えている。これらの知的活動は、各自の考え方や思想性とも密接に関連し、差別意識や人権感覚にも大きな影響を与えていると考えられる。
 海馬や扁桃体などで構成されている大脳辺縁系といわれる部分では、本能・情動・意欲などに関わっており、これらも差別意識や偏見と結びついていると考えられる。例えば恐怖記憶を担う扁桃体も偏見に関わっている可能性は高い。

 そして今、最も注目されている海馬は、過去の多くの出来事や体験を長期的に記憶する役割を担っていることも明らかになっている。これらの記憶は長期記憶とも「エピソード記憶」とも呼ばれている。
 エピソードとは、ご存じのように挿話や短くて興味深い話のことである。それらの記憶に関することからこのように名付けられた。つまり海馬は知識や情報の記憶に重要な役割を果たしている。
 先に紹介したように記憶は、海馬の中に神経細胞とその回路として保存されている。脳には神経細胞やそのつなぎ目となるシナプスがあり、電気信号と化学信号によって情報がシナプスを通過して多くの神経細胞へとつながっている。それらが記憶等を構成している。

 こうした脳科学の進化は、あらゆる分野に圧倒的な影響を与える。直接的な影響だけでなく間接的な影響は計り知れない。現在のAIがさらに発展すれば政治・経済・社会・教育等に多大な影響を与え、雇用や仕事の在り方も根本的に変化する。そうした長期的視点を持って差別撤廃・人権尊重の雇用の在り方を考えるべき時に来ているといえる。 

北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)


     

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